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平成の松本清張、新作! 『臨場』

「平成の松本清張」「警察小説の名手」横山秀夫の新作は、他人とは異質な眼を持つ検視官が主人公の連作短編集。

執筆者:梅村 千恵


『臨場』
この本を買いたい!


■死者の人生を掬う「終身検視官」登場!揺ぎない倫理観に貫かれた
「らしい」短編集


 警察小説の名手としてすっかりその評価が定着した感のある横山秀夫。最新作は検視官を主人公にした連作集である。

 倉石義男、52歳。巡査を鑑識畑一筋。「終身検視官」の異名を取る男。植物、動物などについての知識が深く、被害者がその人生を断ち切られた瞬間の状況を鉢植えの花や籠の中のとりのさえずりから読みとる。
職人気質とやくざな物言いのせいで上司受けはよくないが、その一方で熱烈な信奉者もいる。倉石のことを「校長」と呼ぶ一群がそれである。検視の現場で、目から鱗の見立てに出くわした鑑識官、倉石が「土産」として持たせた証拠でホシを挙げた刑事らが、「生徒」となり、「倉石学校」を形成しているのだ。

扱われる事件は、8つ。自室で縊死していた一人の女性は、本当に自殺なのか?(『赤い名刺』)、サツ回りの新聞記者が張り込んでいる眼前で起きた「密室殺人」の意外な犯人とは?(『眼前の密室』)、中年の女と若い男の無理心中現場に隠された哀しい真実とは?(『鉢植えの女』)などなど。

 どの事件も、世間を騒がす大事件ではない。被害者、犯人も、特殊な人間ではなく、どこにでもいそうな一般人である。そういう意味での「派手さ」はまったくない。率直に言うと、きわめて「地味」である。だが、この「地味さ」こそに、この作品のテーマがこめられているのだ。

作中で、倉石は、栄転が決まった部下が検視に臨む際に、こう怒鳴りつけるシーンがある。
「お前、誰のために検視をしているんだ」
「確かに不倫がらみの心中なんて珍しくもなんともねえ。どこにでも転がっているクソ話だ。けどな、どこにでもあるクソ人生でも、こいちらにとっちゃ、たった一度の人生だったってことだ。手を抜くんじゃねぇ。検視で拾えるものは根こそぎ拾ってやれ」

この一言にこそ、この著者の一貫したスタンスが現れているような気がするのだが、いかがだろうか。
こういう生真面目さ、生硬さが横山作品の魅力でもあり、と同時に、一部の本好きを遠ざける弱みでもあるように思う。本当のことを言うと、私も、そういう「一部の本好き」なのだが、この作品は、大反響を呼んだ『半落ち』『クライマーズ・ハイ』よりむしろ楽しめた。
なぜかというと・・・
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