■肉体に刻印された「記憶」としての運命を語るにふさわしい語り手

 その理由のひとつは、アメリカ文学者の柴田元幸氏が解説で指摘しているように、この語り手が両性具有者であることだろう。彼女(ないしは彼)が、男性・女性の双方の心理にズカズカと踏み込んで語るのが、まったく不自然でないのだ。なかなかに巧妙な仕掛けである。

 だが、この語り手がこの物語にふさわしいと思える最大の理由は、この物語が「運命」をテーマとしている物語であることだろう。

本作には、ギリシャ神話から最新の遺伝子工学まで多彩な枠組みで、人がその肉体のうちに持っている「記憶」とでもいうべき「運命」についての考察が語られる。
その「記憶」は、通常では人の認識の枠外にある。だが、認識されるとされないに関わらず、その記憶は、確かにある。だからこそ、この記憶を語るのに、肉体にあらかじめ刻印された性と自らが認識していた性が異なる主人公ほどふさわしい語り手はいないのである。

 さて、この主人公は、自らに課せられた、悲劇と呼んでもさしつかえない「運命」にいかに対峙するのか。その答えと、その答えにたどりつくまでの軌跡は、ぜひ、本書を読んでいただきたい。

 「翻訳ものは苦手」という方もいらっしゃるだろうが、何せ、ピュリッツァー賞受賞作だ。何せ、あの柴田元幸氏、大推薦作だ。前評判に左右されて読んで、ぜったい損はないと思う。

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