修作が、兄の部屋をあさり、彼が仕組んだ「カッターナイフの替え刃掴み取りボックス」のトラップにひっかかるシーンはこんな風だ。
--ゴムのような変な感触が伝わってきた。それに所々、粘着性がある。(中略)。再び右手をボックスの上に手を差し出し、ガムテープの口の上に置く。ガムテープで形成された口を指でなぞる。ゲーム性が少しあるから若干、修作は楽しくなってきた。掴みすぎないように、そう言い聞かせながら修作は右手を勢い良く立方体ボックスの仲に突っ込んだ・・・(本書より)
ここにあるのは、著者が対象をひたすら凝視する、その執拗な視線だ。
■物語世界は、矮小。そのこと自体が作品の魅力の源泉。確信犯ぶりに戦慄
舞台を家庭に限定したこの物語の世界は、確かに、矮小である。著者は、矮小な世界を執拗に凝視し、描写する。その描写が、矮小な世界で凝結する黒さの密度をより高めている。密度をきわめて透明にすら見えるほどの黒さに・・・
そういう意味では、「世界の矮小さ」も、この作品の魅力を形成する重要な要素でもあるのだ。
この著者は、高校3年生であり、文藝賞最年少受賞者の一人だ。
もちろん、物語の舞台が限定されていることは、彼の若さにも起因しているだろう。だが、彼は、その矮小さを、あきらかに、逆手に取っている。
そう、確信犯なのだ。
少なくとも、「若いのに、凄い」という誉め言葉は、彼には当てはまらないだろう。
職業的な意味でも、「プロ」の書き手になっていただきたいという期待を込めて、賛辞を贈りたい。
この本を買いたい!
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