『LAST ラスト』
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■「どんづまり」から物語が始まる。著者のみつめる「ラスト」とは?
新直木賞作家、石田衣良の、最新作『ラストLAST』は、崖っぷちの7人のそれぞれの「LAST」を描いた短編集だ。
もう後がない!事態に追い込まれるのは、何が原因なのか?
まあ、なんといっても、原因の第一位は、お金だろう。貨幣経済の成立以来、まさに、「金が敵(かたき)の世の中」、というわけで、本作も、7編のうち、4編が「金銭がらみ」「借金地獄」のモティーフにした話である。
運転資金に苦しんで闇金に手を出して、追い込みをかけられている工場主(ラストライド)、夫の収入減でカード破産寸前の主婦(ラストジョブ)、職を失い、家賃が払えず、ホームレスになった男(ラストホーム)、独立開業したリフォーム業に失敗し、ヤバイところから金を借りて犯罪行為に加担させられる男(ラストドロー)、闇金から借金が膨らみ、日給千円でローン会社の看板もちをさせられている元・靴屋(ラストバトル)・・・
こうして書いているだけで、物語の主人公たちが、かなりヤバい、「どんづまり」の場所に立っていることは、推察していただけるだろうと思う。ともかく、本書に所収されている作品は、すべて「どんづまり」からから物語が始まるのである。
彼らは、崖っぷちで、究極の選択を迫られる。「ラストライド」の工場主は、家族を売るか、自分の命を投げ出すかを迫られるし、「ラストバトル」の主人公は、一生飼い殺しの日々を続けるか、命を暴力団どうしの抗争の「ネタ」として提供するかを迫られる。
■「ラスト」の果てにあるものは・・・
「どんづまり」の選択、その先に予想されるのは、さらなる転落か、あるいは、起死回生の大逆転。しかし、著者は、その顛末を追うことを物語の主眼とはしていない。
もちろん、選択の結果は、それなりに出る。だが、その結果の意外性や必然性より、選択そのものに対峙する人間そのものの方に、著者は視点を置く。
選択の果てに「ラスト」があるのであるのではなく、その選択そのものが「ラスト」なのである。
「ラスト」の先に、著者が何をみすえているのか。そのあたりは、ぜひ本編をお読みいただいて確認していただきたいが、そこにあるのは、果てしない転落でもなく、大団円でもない。
強いて言うなら、それは、それでも続いていく、人の生だ。
大出世作(と私は思っている)『池袋ウエストゲートパーク』とも、代表作(と私は思っている)『美しいこども』とも違う著者の魅力を味わえる作品集である。
そういえば、『池袋ウエストゲートパーク』も、新作が発表になった。
「オール読み物」10月号に掲載されている「スカウトマン・ブルースIWGP ?」。今度は、どんなガキどもが登場するのだろうか?