『半落ち』横山秀夫、講談社 1700円
この本を買いたい!
■豪華かつ渋い出演陣。ヒューマンドラマ「以外」の魅力も表現してほしい
2003年度「このミステリーがすごい」(宝島社)「傑作ミステリーベスト10」(週刊文春)で国内作品1位を獲得、30万部を突破したベストセラー『半落ち』の映画化(東映系)が決定した。
出演は、寺尾聡、柴田恭平、吉岡秀隆、鶴田真由、原田美枝子ら。豪華、かつ渋い布陣。「たそがれ清兵衛」で映画賞を総なめにした長沼六男が撮影を担当するなど、2004年新年を飾る目玉作品として、東映もなかなか力が入っているようだ。
ストーリーは過去のガイド記事で紹介させていただいたので、未読の方は、そちらをお読みいだきたい。
矜持をかけて守るべきことのために、事実を隠しつづける元・刑事、梶を演じるのは、寺尾聡。物語のしょっぱなであっさり自首してしまう設定であり、セリフや動きが少なく、しかも、その寡黙さの中に、固く熱い矜持を秘している役どころ。「目で演じる」ことが要求されるだけに、話題性がある俳優なら誰でも、というわけにはいかないだろう。何でも、「静かで透明感のある存在感」というのが、寺尾聡が選ばれた理由らしい。
なるほど。
彼の取り調べにあたる刑事・志木役には、柴田恭平。同作のテーマの一つは、組織の論理と個人の矜持の対立であるが、彼は、いわば、そのテーマを体現する人物である。個人的には、あの人気TV刑事ドラマのせいか、いつまでも「若くて型破り」なイメージのある彼が、「組織側の人間」をいかに演じるか、なかなかに興味深い。
新聞記者役には、鶴田真由。おそらく原作での中尾洋平をリストラクチャリングして演じるのだろう(違っていたら、ゴメンなさい)。ビジュアル化にあたって、この作品に弱点があるとすれば、女性の登場人物が少なく、些か華やぎに欠けるところだろう。そのあたりを考慮しての工夫であろう。
個人的な意見だが、映画化にあたっての、注文を一つ。「泣かせ系」のヒューマンドラマとして高い評価を得ている同作だが、私は、同作のユニークな点は、判事、弁護士、マスコミの視点を取り入れ、日本の司法をとりまく状況が、緻密かつ多角的に書き込まれていることだと思う。梶と志木の静かな対決、男同士の深い共感を織り交ぜながら、感涙の真相になだれこんでいくだけでなく、そのあたりをきっちり表現していただきたい。
(佐瀬判事、植村弁護士を誰が演じるのか、ご存知の方は、ぜひ教えてください)