■顧客が望んでいる価値を提供する――当たり前のことを当たり前にやるために必要な「変化」を巻き起こす
就任まもない時期から彼が心のうちに秘めていた「戦略」の一つが、情報産業界で当時主流だった「小さな企業」のための分社化の流れを拒否し、会社を「巨象」のまま一体として保持することだった。当時、彼のこの戦略は社内外の多くの関係者に、平俗な言い方をするなら「古い」と思われたのにちがいない。本書でも触れられているが、これ以外の彼の戦略の根幹も、IBM創設時の理念に多くの部分で重なっている。
彼はなぜ敢えて過去に戻る戦略を選択したのか。
それは、顧客がそれを望んでいることを確信していたからである。
当時、IBMを追い詰めていた最も大きな要因は、中央集中型コンピューティングから分散型コンピューティングへという市場の流れであるといわれていた。しかし、業界の外で、業界の「顧客」だったガースナーは、気が付いていた。顧客が求めるのは、規格も内部接続の要件もバラバラな端末機器をいくつも抱え込むことではなく、思い通りのビジネスができるようにしてくれるプラットフォームであり、総合的なソリューションなのだ、と。そして、IBMを率いるようになった彼は、確信したのだ。その顧客が求める価値を提供できうるのは、規模や商品構成、ノウハウの広範さを有する「巨象」なのだ、と。
顧客が望む価値を提供する――これは、企業にとって当たり前のことだろう。しかし、その当たり前のことを当たり前にやれる体制なり体力を有している企業ばかりでないだろう。ガースナー就任当時のIBMがそうだった。弱体化した財務体質、分断され複雑化した意志決定ルート、規範が硬直化した手続きに変じていた企業文化・・・。彼は、そのすべてに果断にメスを入れ、変化を巻き起こす。当たり前のこと当たり前にやるために・・・。
それぞれに立場で企業に携わる人が、今、当たり前のことを当たり前にするために、変えなければいけないこととは何か。本書はそのことを考える糸口になる一冊なのではないだろうか。
★あえて、アラ、捜します!
編集の問題かもしれませんが、著者の経営改善の奇跡と哲学が章ごとに交錯していて、多少読みづらい。文章は平易で力強く、とてもすばらしいのですが。
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