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ちょっとだけカルトな本棚 『夜の寝覚め』

「不惑」のはずの年齢を迎えた女性たちの甘やかな戸惑い、切ない官能、ささやかにして激しい情熱。エロスの輝きに彩られた珠玉の恋愛短編6編。

執筆者:梅村 千恵


『夜の寝覚め』

小池真理子 集英社 1400円
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■この作品の魅力は、私たちだけのもの!? 読者限定(?)恋愛小説集

直木賞作家であり、数多くのヒット作を持ち、名実とともに当代の人気作家である著者の作品をちょっとだけ、にしろ「カルト」という形容するのは、誤謬かもしれない。しかし、本作に関して言うなら、読んだ人のうちかなりの割合の人が、「この作品の良さは、○○の人にはわからないわよ」と思ったに違いない(と思う)。だから、あえて、「ちょっとだけカルト」と位置付けさせていただいた。

さて、この作品の良さがわからない“○○の人”とは? 極言するなら、“オトコの人”であり、そして、いわゆる、「恋愛適齢期」の“オンナのコ”だ。

収められている6編の恋愛小説の主人公は、いずれも40~50歳代の女性。
帯には、“人生の秋を迎えた女性”ときわめて文学的な言葉で形容されているが、俗な言い方をしてしまうと、「オバサン」であり、「恋愛を卒業した」と認知されても反論できないような年齢層に突入した女性たちだ。しかも、彼女たちは、社会の枠組みを大きく逸脱した特別な人物ではない。
公認会計士の夫と平穏な日々を過ごしてきた小夜子(『たんぽぽ』)、離婚歴はあるがひっそりと地道に自らを養ってきた弓子(『旅の続き』)・・・。
言ってしまえば、どこにでもいるようなごく普通の女性たちである。あなたの、私の、隣に住んでそうな、いや、あなた自身、私自身そのもののような女たちの恋の物語である。
彼女たちの恋は、必ずしも劇的な展開をみせない。
それでいて、あまりに切なく、あまりに激しい。

それは、何ゆえなのか?
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