■有形・無形の「遺産」活用のために必要な複眼的な視点
スポーツに限らず、「イベントの遺産」と聞いて、まっさきに浮かぶのは、新設された巨大スタジアム、野山を切り開いて作られた会場、パビリオン・・・そう、いわゆる、「ハコもの」であろう。ちなみにW杯のために整備された各地のスタジアムは、大規模災害の際の避難所として使われる予定らしいが、「ハコもの」は、短時間のうちに維持費ばかりを喰う無用の長物と成り果てる危険性も否定できない。そうならないためにはどうすればいいのか。
本書は、まず、「ハコもの」に代表される有形の遺産だけではなく、イベントで醸成されたスポーツへの関心や地域の連帯感など、無形の遺産にも注目すべきだとする。そして、それらを都市運営に活かしていくためには、複眼的な視点が必要であると説く。複眼的な視点として著者が挙げているのは、「プロ・スポーツ産業の育成」であり、「するスポーツへの関心の醸成」などだ。それらを含め広義の意味での「スポーツ」を活性化の触媒としようとした日本及び世界の都市の取組み(その失敗も含めて)の例も多数挙げられている。
本書で指摘されているとおり、重厚長大産業によって発展してきたわが国の近代都市も、産業構造の変化と住民の高齢化によって活力を失い、長期的な衰退サイクルにはまり込んでいる。ここから脱出する方法論を模索する際、メガ・スポーツイベントを瞬間的な「起爆剤」とのみ捉えるなら、それは、かなりの確率で「焼け石に水」かもしれない。しかし、それを、有形・無形の遺産の「母胎」だと捉えるなら、どうだろう?
「W杯の経済効果は・・・」というニュースの裏側では、同イベントに関与した各都市の思惑が今も様々に入り組んでいるに違いない。本書を読んでつくづく願う。その思惑が「戦略」に繋がっていくものであることを。
★あえて、アラ、捜します!
で、具体的にどうすればいいの?となると、「ウォーキング・シティーの提案」など、正直、新味に欠けるように思える。もうちょっと、魅力的な案がないものか?
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