「A.P.M.の登場は、マルチチャンネルの元年と言える」
今回は、ソニーの現役エンジニアであり、音質評価やチューニングなど「音の番人」を務める金井隆さんに話をお伺いすることができました。金井さん曰く「A.P.M.の登場は、マルチチャンネルの元年と言える」と、その革新性、完成度の高さに手応えを感じられているご様子でした。
確かに、「A.P.M.」によって得られる「空気感」は素晴らしものです。しかも、スピーカーが違ったり、部屋の音響特性にクセがあるなど、一般的なユーザーが抱えている問題に向き合い、その設定が30秒程度で自動的に済ませられる点で、万人に実用的な好機能と言えます。
筆者鴻池は、ホームシアター関連の仕事に10年以上携わっていますが、その中でも「A.P.M.」は、一番の出来事と言って良いくらい感銘を受け、「マルチチャンネル元年」の言葉は、まったくその通りだと思いました。
2010年からは、家庭用としても、各社から、3D(立体)に対応したテレビやプロジェクターが発売される見込みです。映像の3D化をよりリアルに体験する上で、音にもより緻密な立体感が求められるでしょう。このような観点からも、「A.P.M.」は注目すべき技術だと、筆者鴻池は考えています。
その他、金井さんからは、「TA-DA5500ES」のもう一つの新目玉機能「HD-D.C.S.」についても、詳しくレクチャーを頂きました。
機能の詳細は、ソニーのWebページを参照頂きたいのですが、端的には、映画館の持つ音の響きを、ホームシアターで再現しようとするものです。
映画作品の音声は、最終的には、ある程度残響音のある映画館での再生を想定して仕上げられています。ところがBDやDVDの収録されている音は、この映画館のスピーカの音源に相当し、映画館の残響音は全く含まれていません。結果、映画館のような残響のない家庭のホームシアターで再生すると、響きが足りないと言うか、ドライに聞こえるという訳です。
「HD-D.C.S.」は、ソニー・ピクチャーズにある、映画の音の編集スタジオである「ケーリーグラント・シアター」の"響き"を、ホームシアターでシミュレーションしようとするもので、「HD-D.C.S.」をONにすると、潤いが増し、セリフも聴き取りやすくなります。
金井さんによると「セリフは残響音が短くても、長すぎても聴き取り辛い。0.5秒くらいが丁度良い」とのお話で、実際の試聴感からも納得できました。
また旧来、こうした「音に残響成分を付加する」試みは、各メーカーがいろいろ試みて来ましたが、本来の音質やテイストが台無しになったり、最初の5分くらいは面白いけれど、長時間の鑑賞に堪えるものはなかった気がします。
「HD-D.C.S.」は、測定と補正の精度が向上し、ブルーレイの音質にも耐える仕上がりとなっているそうで、この点について金井さんは「僕が2時間映画を楽しめるように作りました」とのこと。こちらもまた、完成度の高さが伺えました。