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70年代の名作映画ベスト5:ヨーロッパ編

「もう一度観たい70年代の名作映画ベスト5」の第2弾は、ヨーロッパ映画編をお届けします。地味な中にも深い味わいのある映画史に残る秀作群です。

執筆者:中野 豊

70年代はベトナム戦争の終結とシンクロして、アメリカ映画がニューシネマの台頭とハリウッド映画復活の時期で、あまりヨーロッパ映画に目が向きませんでしたが、東京の岩波ホールを筆頭に単館上映劇場ができ、商業ベースにのりにくい良質のヨーロッパ映画が公開されだした時期でもあるのです。

今回は70年代、忘れがちだったヨーロッパ映画の中でも秀作の誉れ高きベスト5をカウントダウンで紹介します。第5位は『マリア・ブラウンの結婚』、『フェリーニのアマルコルド』、『惑星ソラリス』などと悩みましたが、ギリシャ映画『旅芸人の記録』からスタートします。

ギリシャ現代史を知り、カメラワークに驚愕する
第5位:『旅芸人の記録』

テオ・アンゲロプロス全集 DVD-BOX I
『旅芸人の記録』も収録されている「テオ・アンゲロプロス全集 DVD-BOX I」
ナチスへのレジスタンスの過程で民族が分裂し、右派の軍事独裁政権下となったギリシャを背景に、旅芸人の一座が見つめる現代ギリシャ史をエピックポエムに描いた一篇です。

ガイドはギリシャ現代史に強くないので、ストーリーラインを掴むのはやっとでしたが、まずは本作の映像を観ていただきたい。バストショットより寄る映像はなく、更にワンショットが長い時で7分ほども続きます。フラッシュのような短いショットの連続の現代ハリウッド映画世代はびっくりするのではないでしょうか?

たとえば、一座が公演している劇場に銃声が響くと、舞台視点に据えられたカメラは動かず、逃げる芸人と観客たちの悲鳴が「音」だけで表現されます。対象物をダイレクトに見せずに状況を知らせる映画技法ですね。また人々が移動している反対側に360度パーンをして対象に戻るなど、見たこともないカメラ・ワークに驚くばかりです。

【作品情報】
・1975年/ギリシャ映画
・上映時間:232min
・監督、脚本:テオ・アンゲロプロス
・出演:エヴァ・コタマニドゥ、ペトロス・ザルカディス、ストラトス・パキス、アリキ・ヨルグリ、マリア・ヴァシリウ

封建的社会の農民たちの生活を朴とつに描いた傑作
第4位:『木靴の樹』

木靴の樹
1978年カンヌ映画祭グランプリ受賞作『木靴の樹』
題名の由来は、父親が息子のために伐採を禁じられていた街路樹を切り、木靴を作ります。それが周囲に知れ渡り家族が壊れてゆく挿話からです。

本作は、小作農場に暮す4家族に起る様々な出来事を、フォーシーズンズにのせ、一切のドラマチックな演出を避けながら悠然と繰り広げてゆきます。人生というドラマを粉飾せずにみせる3時間、商業主義とは正反対の作風に驚きながら「こんな映画を待っていたんだ」と思わせてくれた世界が認めた名作映画です。

【作品情報】
・1978年/イタリア映画
・上映時間:187min
・監督:エルマンノ・オルミ
・出演:ルイジ・オルナーギ、オマール・ブリニョッリ、ルチア・ペツォーリ

グロテスクなおとぎ話風歴史劇
第3位:『ブリキの太鼓』

ブリキの太鼓
カンヌグランプリ&アカデミー賞外国語映画賞受賞作『ブリキの太鼓』。日本公開は1981年です
主人公のオスカル少年が自分自身の生まれてくる状況をナレーションするオープニングから度肝を抜きます。

三歳の時に大人になるこを拒絶し、階段から転落して自ら成長を止め、どうしたはずみか叫び声でガラスを割るという超能力を身につけます。一見、悪趣味なホラー映画のように感じられる本作の背景で、ナチス政権下にユダヤ人狩りがはじまったポーランドの激動史が被さり、やがて終戦を迎え、オスカル少年は成長することを決意します。

戦時中ポーランドの現実を傍観するオスカル少年の視線の、ファンシーなグロテスクホラー歴史劇となった、見たこともない不思議な作品。ニュージャーマンシネマの最高作です。

【作品情報】
・1979年/西ドイツ=フランス映画
・上映時間:142min
・監督:フェルカー・シュレンドルフ
・出演:ダーヴィット・ベネント、マリオ・アドルフ、アンゲラ・ヴィンクラー


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