■ローアングルのカメラワークが
■女子サッカーの醍醐味をリアルに表現
試合場面のカメラワークが迫力を演出している。ローアングルから、サッカーという競技の魅力を凝縮したような、スピード感のあふれるカットが、かっこよくつなぎあわされてリアリティ満点。あんなふうに撮ってもらえたら、どんな競技の選手たちもうれしくなってしまうのではないだろうか。この映画をきっかけにフットサルやサッカーを始める女性が増えるかもしれない。
監督はなぜ、サッカーを映画のモチーフにしたのか。女性の競技の中でもサッカーは、バレーボールやバスケットボール、テニスなどに比べて、女性がプレーしているところを見る機会がまだ少なく、サッカーは男性の競技という先入観を持っている人が少なくないのも事実だ。
映画の中でも、「女の子のクセにサッカーなんかやってて」と、ジュールの母親が文句を言っている場面がたびたび出てくる。監督が数ある女子の競技の中からあえて”サッカー”を選んだのは、この競技がまだ広く女性のものとして認知、定着していないというところ、つまり、イギリス社会におけるインド系の人々、サッカーという競技における女子選手の位置づけが、メタファーになっているのではないだろうか。
ヒロインを演じたナーグラにはサッカーの経験がないという。が、彼女はこの映画に出たくて、サッカー経験があるとウソを言って必死に練習したと、パンフレットに紹介されていた。グリンダ・チャーダ監督は、舞台でのナーグラの演技を見て、すでにジェス役は彼女でと決めていたらしい。彼女を思い浮かべながら書かれたという脚本は、ナーグラに高い演技力を要求していた。その一つが「アメリカのプロサッカーチームが目をつけるほど、サッカーがうまい少女」をリアルに演じるようにというものだった。8週間にわたるトレーニングで身につけられた技術には限界はあったかもしれないが、彼女は女優として「すばらしいサッカー選手らしく、魅せること」には、十分成功していた。小柄な彼女がピッチを駆け抜け、相手選手にくってかかり、ゴールを決めたときチームメートに体当たりの祝福を受けている姿が、さわやかだ。
ある重要な試合で彼女はフリーキックを任される。そのとき映画の原題が思い出された。「Bend it Like Beckham」。ベッカムのように曲げろ! 果たして彼女の蹴ったボールは、美しい放物線を描いてゴールに飛び込むことができるのだろうか。
■親を乗り越えるとき、子は自らに問う
■「反対を押し切ってまで、本当にやりたいことなのか」と。
家族との葛藤もこの映画の重要なテーマの一つだ。監督は父親と自分の関係を自伝的に作品に盛り込んだという。ジェスの両親はインドの価値観だけでなく、2つの点でジェスにサッカーをすることを禁じていた。一つは彼女の姉の結婚が決まり、嫁ぎ先のインド系の家族たちに常識知らずな家庭だと思われたくないこと。もう一つは、父親が昔イギリスに渡ってきたときに受けた心の傷に原因があった。
一方、ジュールも「女の子はこうあるべき」という保守的な母親に、サッカーを反対されている。父親は庭にゴールポストをつくってくれるくらい、娘を応援しているのだが。さらにもう一人、親子の関係で悩んでいる人がいた。コーチのジョーだ。厳格な父親からサッカーを禁じられ、そのことで自らの選手生命を断つ怪我をしてしまい、今は指導者になっている。
親と子の関係もまた、クロスカルチャーと呼んでい関係なのかもしれない。子どもの真剣なひたむきさ、情熱を見て親も変わっていく。ジェスの父親がクライマックスで娘にかける言葉は感動的だ。