世界配給より観客の反応を重視

──スティーブン・スピルバーグが率いるドリームワークスが『千年女優』の全世界配給権を獲得したことについては、どう思われましたか。

今 敏監督(以下:今):正直なところ、あまり実感はないですね。もちろんうれしいですよ。ドリームワークスが日本映画を世界配給するのは、この映画が初めてのことですから。非常に光栄ですし、とてもうれしいですけど、それがイコール作品の評価につながっているとは思っていません。
それよりもカナダ・モントリオールで開催された「第6回ファンタジア映画祭」で、実際に観てくれた観客の反応がよくて、かつ賞(注1)もいただいたということのほうが感激しましたね。『千年女優』は、ストーリー展開も含めて、日本の歴史とか 文化など日本独特のものが多く織り込まれているにも関わらず、海外の人に偏見なく楽しんでもらえたのは本当にうれしかった。これならどこの国の人でも楽しんでもらえるだろう、という予感と自信を持ちました。
(注1)最優秀アニメーション映画賞 芸術的革新賞受賞

──企画のときから世界を意識していたのですか。

今:そうですね、前作の『パーフェクトブルー』の後ということで、最初から世界は意識していました。 『パーフェクトブルー』は私のデビュー作なんですが、日本人でもよく知らない狭い世界を描いていて、まさか日本以外で上映される機会があるとは思ってもいなかった。それが世界各国の映画祭に招待され、その後ビデオやDVDも海外で発売される。ファンの方もたくさんいるという話を聞き、これは受け入れてもらえる下地はできているな、という感触はありました。
お客さんの顔も具体的にイメージできましたし、そういう意味では、「世界を狙う」というのではなく、「世界の人が観るであろう」という確信の元に作りました。だからといって海外の人が喜びそうな日本的なものをやろうとしたわけではないのですが・・・。もちろん世界配給を期待するとか、映画祭で受賞するというのは考えてもいませんでした。

『パーフェクトブルー』があったから『千年女優』は生まれた

──『千年女優』誕生の経緯を教えてください。

今:『パーフェクトブルー』を気に入ってくれたプロデューサーが、次回も同じような"騙し絵"みたいなものをやりましょうよ、と言ってくれて、それをベースに私もいろいろなアイディアを出したんですが、最終的に『千年女優』に落ち着いたんです。これはやっぱり必然のような気がしますね。どこかで出会うようになっていたとか、いわゆる"縁"みたいなものですか。言葉ではうまく表現できないんですが・・・。
映画を作るときには、「どうしてこれに決まったんだろう。どうしてこれをやりたくなったんだろう」と、作品と自分との関わり方を考えながら進めていきます。そしてできるだけ作品の声に耳を傾けるようにします。『千年女優』と対話をしながら、「彼女はこう言っているから、こういう風にしてもらえないか」というように、どちらかといえば映画と制作サイドとの仲介人みたいな感じですね。