お客さんの数だけ映画の見方、楽しみ方がある

──観客にはどんなところに興味をもって観てもらいたいですか?

今 敏監督(以下:今):どんなイメージでもいいと思うんですよ。「ピュアなラブ・ストーリー」と思ってくれてもいいですし、魂が成長する過程を描いているという読み取り方でもいいです。あるいは「現実と幻想、思い入れとは何ぞや」みたいなところに興味を持つ人もいていいし、単純に「カワイイ女の子がいろんなコスプレで登場してすごく楽しい」みたいなものでも全然構わないと思います。それはもう観客それぞれの自由な見方で観てもらえればいいんじゃないでしょうか。

真実や正解はひとつじゃない

──『千年女優』のテーマ、真実と虚構についてはどう思われますか。

今:映画では元大女優だった千代子の回想は、真実と虚構が入り乱れ、その境目もあやふや。それが正しいとか間違っているという次元で話をすると精神的にキツくなると思うんです。常識とか他人と共有している時間も大切ですが、それだけで人間は生きられるものではない。ある人にとってはそれと同時に空想や思い出があって、それを全部ひっくるめて「真実」なんじゃないかと。この映画を通して「現実に起こっている事実だけがホンモノじゃない」ということを、感じ取ってもらえればいいですね。

──日本人の弱点と言われる「曖昧さ」もこの映画には出てきますね。

今:『千年女優』の製作期間は約2年半くらいだったんですが、その間に確信したというか意識の変化があったのは、「曖昧さ」ですね。以前は矛盾のない一貫したものが正しいと刷り込まれて、ずっとそれでやってきたんですが、果たしてそうなのかどうか。プロットや脚本を練って、資料を見ながら1カットずつ絵コンテを描いて行くうちに、「曖昧で何が悪い?」(笑)と思うようになったんです。
曖昧だからはっきりしないんじゃなくて、黒も白も知っているからはっきりさせることはできない。これはある意味矛盾しているんですが、「はっきりした曖昧さ」というか、白も黒もあっていいんじゃないか。矛盾を抱えたままどう生きて行くのかというのが大切で、「矛盾がなくなれば正解」というのはおかしいと思いますね。
ただ若い人がこれを鵜呑みにして、「なんでも曖昧でいいんだ」と単純に受け止められると困るんですけど(苦笑)。キチンといろんなことが分かった上での話なんですよね、これは。

「虚構と現実」の世界を描く映画に注目

──影響を受けた映画はありますか?

今:『千年女優』に限って言えば、昨日も今日も明日も同時にある感覚というのは、ジョージ・ロイ・ヒル監督の『スローターハウス5』('72年)からの影響が一番大きい。同じ監督作品で『ガープの世界』('82年)は、人の一生モノという観点から観直したりしました。ああいうモノの見方というのは、すごく参考になっています。そのほかには、テリー・ギリアム監督の『バロン』('89年)の主観による世界観みたいなものにも刺激を受けました。

──今日はどうもありがとうございました。

■プロフィール 今 敏(こん・さとし)
1963年北海道出身。武蔵野美術大学在学中にヤングマガジン(講談社)誌上で漫画家としてデビュー。'90年、単行本『海帰線』・'91年『ワールドアパートメントホラー』(ともに講談社刊)を発表。'97年、初監督アニメーション作品『パーフェクトブルー』で衝撃的なデビューを飾る。'01年『千年女優』を監督。現在'03年公開予定の新作オリジナルアニメーション映画『東京ゴッドファザーズ』を制作中。

■『千年女優』(せんねんじょゆう)
かつて一世を風靡した大女優藤原千代子の元に、小さなカギが届けられる。あたかもそのカギが記憶の扉を開くように、千代子はその波乱万丈の人生を語り始める。それは、"映画"という幻想の海流を通って、はるか戦国の昔から見果てぬ未来の彼方まで広がって行く。

原案・脚本・監督:今 敏 脚本:村井さだゆき 音楽:平沢進
2001年/日本映画/87分
9月14日より渋谷東急3ほか全国ロードショー
オフィシャルサイト:http://www.1000nen.net

<インタビュー・テキスト:名護すえ子>



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