お神楽について教えてください
ガイド:お神楽―日本列島の闇夜を揺るがす |
三上:
80年代終わり、ワールド・ミュージックが流行っていた頃に日本からそのシーンに加わる音楽があまりなかったので、同じ土俵に上がれるような根拠としてのルーツミュージックを探していたというのがひとつ。そしてアイヌの文化運動を手伝っていたときに世界中のネイティブ文化と出会ったんですが、その時に日本人としてのアイデンティティーを問われ、ネイティブジャパニーズカルチャーも探していたことがひとつ。
神楽を知ったときに、この両方を見つける糸口になるのではという直感があり、いろいろな縁やサポートをもらって日本中の神楽を見て歩いたら、それが間違っていなかったという確信を持つようになったんです。 アニミズム、シャーマニズムもちゃんと残っているし、神楽を通していろいろなものがわかるようになりました。
研究者と違うのは、今存在している神楽が今の私達にとってどういう意味、価値があるのか、ということを考えていきたいと言うこと。それを音楽を通しても表現できればと思っています。
ガイド:
宮廷ものと神社ものとかお神楽にもいろいろあるのですか? お神楽はもともと宮廷のダンスミュージックだと解釈していいのでしょうか?
三上:
神楽は芸能としても存在しますが、その本質は祭りそのものです。御神楽と呼ばれる宮廷の神楽は舞いが中心ではないようです。宮廷の舞いには雅楽があるのでそれをダンスミュージックと呼べないことはないですが、土着の感覚は薄れています。僕の見て歩いている民間の神楽の多くは氏神を祀る祭りであり、便宜的には里神楽と呼ばれていて、こちらのお囃子方がダンスミュージックとよぶのにふさわしいと思います。 そしてそれは縄文の祭祀文化まで遡ることもできると考えています。
ガイド:
狭義の邦楽、雅楽、お神楽とはどんな関係になっているんでしょうか?
三上:
日本の伝統芸能で一番古いのは神楽だということになっています。民俗芸能でもあるわけですが、民俗芸能はもともと祭り・信仰文化から生まれました。
雅楽は外来のもので純粋な芸能です。舞いの一部に朝廷に征服された土着の民の「隼人舞」なども見られますが、神楽との関係はそれほど強くありません。明治になってから雅楽的な音楽で巫女舞をするような神社が都市部で増えて、雅楽と神楽を混同している人が「知識人」の中にも多いのは残念です。
その巫女舞がよく見られる神前結婚式というのは明治になってからキリスト教会の結婚式を真似して神社が導入したということらしいです。僕としては神楽と雅楽は「全然ちがうもの」と言いたいです。
邦楽というのは明治になって「洋楽」という呼び方が出来て相対的に出来たもので、けっこう曖昧です。僕のイメージだと「邦楽=家元制度」なんですけど。江戸時代に発生したものが多いでしょうか。
ガイド:
お神楽は通常、どのような楽器編成になるのでしょうか? 実際に三上さんが、よく使われる楽器もあるのですか?
三上:
太鼓のないお囃子はほとんどありません。いわゆる大太鼓がメインです。締太鼓と鋲打ち太鼓の二種類があります。それに加えて小ぶりの締太鼓も組み合わせて使われます。
それから笛。篠笛が多いですが場所によっては龍笛なども使います。そしてシンバルの手平鉦。呼び方もいろいろで大きさもいろいろあります。この太鼓、笛、手平鉦が三点セットでしょうか。笛や手平鉦は複数の人が演奏することがありますが、大太鼓はほんのわずかの例外を除いてひとつだけです。
余談ですが、太鼓を大勢で叩く「和太鼓グループ」というのは戦後の創作芸能で、伝統に根ざしていないことはないですがオリジナルです。学問的には「太鼓」と呼ぶと伝統的なもので「和太鼓」と呼ぶと創作ものというふうに分けているようです。昔から日本にあるものにわざわざ「和」をつける必要がないわけですね。
神楽では太鼓はひとつですが、迫力よりも音色や響きを大切にしていて「和太鼓」とは全然違うものです。この他に場所によって鼓が加わるところもあるし、ただの板を使うところもあります。
自分の演奏では太鼓三種と手平鉦を使っています。