——Mad Frenchのライヴでも披露されていたブリジット・バルドーの『Une Histoire de Plage』(このカヴァーも秀逸!)。昔から、ブリジット・バルドーなどのフレンチポップスが好きだったんでしょうか?
フレンチポップスというよりは、映画の中で女優が歌っているような音楽が好きなのです。女優が歌っている雰囲気が好きです。お話しているような、語りかけているような、そしてもちろん囁くような歌い方が好きです。
歌う女優の原型マルレーネ・ディトリッヒはもちろん、マリリン・モンロー、ブリジット・バルドー、「愛の嵐」のシャーロッテ・ランプリングやジャンヌ・モロー。カトリーヌ・ドヌーブの声も可愛いし、「アンナ」にちょっとだけでてくるマリアンヌ・フェイスフル、それから「ブルー・ヴェルヴェット」のイザベル・ロッセリーニ。「気違いピエロ」のアンナ・カリーナ・・・ 「女優が歌う」っていうのはとてもフランス的な感じがします。最近観た「歓楽通り」のレテシィア・カスタも良かったです。
——フレンチ、ポストパンク、聖歌、夢見る少女の耽美的世界などが見事に共存してしまっている不思議なアルバムというのが僕の印象です。特にコリン・ニューマンが「カヴァーの天才!」と言った、スーサイドの「Cheri Cheri」のカヴァーは、完全に再構築されたSONOKOワールドですね。このカヴァーをした理由は?
デビュタントの中の曲は、わたしが好きな曲だけを集めたものなのですが、この曲も、大好きな曲のひとつでした。スーサイドの「Cheri Cheri」は、初めて聴いたときに、この曲をわたしなら、例えばマリリン・モンローが映画で歌っているような甘くて完璧なラブソングにして歌えると直感したのです。
とても硬質なものと甘ったるいものとが融合して創り出す耽美なミスマッチの感覚はケネス・アンガーの映画から学んだような気がします。他の曲と比較して、アルバムの中でも最高のものかは自分ではわからないのですが、この曲がカルトなファンの心を掴んでいるのは確かなようです。
——僕は、徳間音工からリリースされたCrammedのオムニバス・アルバム『It's A Crammed, Crammed World!』(1987年)で初めて、SONOKOさんを知ったのですが、プロデューサー以外のCrammed所属とのアーティストとも交流はあったのですか?
ブリュッセルに滞在していた時は自分のレコーディングに集中していたので、誰かと一緒に音楽をやったりというようなアーティスト間のコラボレーションはありませんでした。
あの当時のベルギーは音楽的にどこよりも優れた場所という認識がありました。そのために各国からミュージシャンが自然に集まり、無国籍な雰囲気を醸し出していました。だからいろんなアーティスト達とごく自然に知り合って、仲良くなるという感じでした。
マークとベロニク(ハネムーンキラーズのヴォーカリスト)にはとても良くしてもらいました。わたしはミニマルコンパクトのサミー(今はDJ MORPHESとして活躍中)達が住んでいる三階建てのアパートの一室に最初住ませてもらっていました。コリンの奥さんでもあるミニマルコンパクトのマルカは、わたしがまだコリンと一緒に仕事をする前から、可愛いバッグや天使をプレゼントしてくれました。
Crammed Discsの人々から"アンファン・ガテ"(甘やかされた子供)と呼ばれてとても可愛がられました。それは決して褒め言葉とは言えないのですが、フランスには一般的には欠点が魅力になってしまうような、そんな不思議な文化があるのです。