——アルバム『La Debutante』(1987年)はWireのコリン・ニューマンとAkasak Maboul(マーク・ホランダーとヴァンサン・ケニス) の共同プロデュースとなっていますが、この2組の違った個性の持ち主はどのようにアルバムに影響を与えていったのですか?
最初はコリン・ニューマンのプロデュースでプロジェクトは始まったんですが、レコーディングが終了して全曲の最終のミックスを聴き終わった後、わたしが完成したいと思っている世界に何か欠けているものがあるのがわかったんです。
フランス文化は特別で独特なのです。アンニュイなムードや、ある種のセクシーさが魅力になる文化なのです。たぶん、フランス人やフランス文化愛好者以外にはそのフランスの文化の持つ特性のようなものが受け付けにくいのだと思います。由緒正しい英国人であるコリンには、フランス文化として伝統的に根付いている"ファム・アンファン"や"妖精のような囁き声"、セクシュアルなちょっぴり媚びたスタイルのものを邪道と思ったのかもしれません。わたしは特にそういうシンガーになりたかったわけではなかったのですが、そういうエッセンスはわたしの一部でもありSONOKOの音楽の魅力のひとつでもあると思っていました。
マークに相談すると、同意見のようでした(マークはフランス文化圏に属するベルギー人)。そこで、「ノンノン人形」「浜辺の物語(Une histoire de plage)」や「cheri cheri」等のいくつかの曲は、もう一度ヴォーカルの録り直しと、リミックスのやり直しをすることになりました。それからの実際の作業は、もうひとりのアクサク・マブールであるヴァンサン・ケニスと進めました。
もちろん基本的なプロデュースはコリンによるものですし、アクサク・マブールとの共同プロデュースなったおかげで、より繊細で深みのある作品が完成したわけですから結果として大変良かったのですが、いくつかのトラックをやり直す事は、わたしにとってもブリュッセルでの滞在日数が増えるという意味では辛かったし、(旅行のつもりで欧州に来たのに結果的に長期滞在になってしまった事、それも初めての一人の海外旅行だったので大変な事もたくさんあったのです)Crammed Discsにとってもスケジュールや制作費が増える事で負担だったと思います。
でも、アルバムがやっと完成した時は、マークは「Crammed Discsの中でも最も美しいアルバムのひとつ」とまで言ってくれましたし、みんなもとても喜んでくれました。マークは、今でも大好きなアルバムだと言ってくれています。アーティストの気持ちを尊重してくれたのは、Crammed Discsのオーナーであるマーク・ホランダーがミュージシャンだったからだと思います。多くの苦難に遭遇したにも関わらず、最終的には望みを達成できたことを嬉しく思っています。
——アルバムのジャケの日本人形のような女性は、ご本人なのでしょうか? また、カセットテープがジャケに写っていますが、これは「お話テープ」?
よくあのアルバムジャケットはCGで作成されたものだと言われるのですが、実はわたしなんです(証拠写真掲載)。それも特別に何か手を加えたわけでもないのにそういう風に言われると(本人からしてみれば)とても不思議な感じなのですが、とてもこの世のものとは思えない不思議な雰囲気を醸し出しているアルバムジャケットなのだと言われます。
ジャケットに映っているカセットですが、(最初に送ったものではなく)確か2つめか3つめのデモだと思います。ピンク色のカセットテープで必ず天使のデザインをつけていました。カセットのデザイン等が注意を引いたというのはあったかもしれません。こういうプレゼンテーションも全て含めてわたしの個性のひとつとして理解されていたように思います。