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Vol.6 夏のドライブに! ボサノヴァ入門盤

あなたの趣味志向に合わせておすすめジャズCDをご紹介するタイプ別「はじめてのジャズCD」。今回のテーマは夏休みのドライブのお供にぴったりの「ボサノヴァ」特集!

執筆者:鳥居 直介

あなたの趣味志向に合わせておすすめジャズCDをご紹介する、タイプ別「はじめてのジャズCD」。第5回では、「奇人・変人好きのための入門版」をお届けしました。

今回のテーマは夏休みのドライブのお供にぴったりの「ボサノヴァ」。ポルトガル語で「新しい感覚」といった意味を持つこの音楽。聴き方によってはジャズよりもはるかにディープな楽しみ方ができる、深みのある音楽です。

ご紹介するのはボサノヴァファンにとっては定番中の定番ばかり……ですが、ジャズガイド独自の切り口でご紹介してみたいと思います。

amazon.co.jpにあるCDは、ジャケ写にリンクしています。

元祖「ちっちゃい声攻撃」――アントニオ・カルロス・ジョビン

■アントニオ・カルロス・ジョビン『イパネマの娘』
アントニオ・カルロス・ジョビン『イパネマの娘』
アントニオ・カルロス・ジョビン『イパネマの娘』
63年作品。ボサノヴァの帝王・ジョビンの自演作品集。どの曲も耳にしたら忘れられない、かわいらしい旋律を持った美しいものばかり。
1. イパネマの娘
2. 平和な愛
3. おいしい水
4. 夢見る人
5. ファヴェラ
6. お馬鹿さん
7. コルコヴァード
8. ワン・ノート・サンバ
9. メディテーション
10. ジャズ・サンバ
11. ノー・モア・ブルース
12. デサフィナード
さて、今回は夏のドライブのお供ということも考え、カーステにどんどん落とし込んでもらおうとたくさん紹介しちゃいたいと思います。先陣を切るのはやはりこの人、アントニオ・カルロス・ジョビン(1927-1994)。ボサノヴァの創始者の1人ともされる作編曲家です。

本作の邦題(アルバム原題はThe Composer of Desafinado,Plays)ともなっている「イパネマの娘;The girl from ipanema」は、聞けば誰もが知っている名曲。ビートルズの次にカバーが多いといわれるこの曲に象徴されるように、ボサノヴァは誰もが口ずさめる、美しくて親しみやすい旋律を持っていました。

ちなみに本作にも収録されている「Chega de Saudade(No more bluesという表記もあり)」という曲は、一般に世界で初めての「ボサノヴァ」曲と言われています(1959年初出)。

■アントニオ・カルロス・ジョビン『The Wonderful World of Antonio Carlos Jobim』
アントニオ・カルロス・ジョビン『The Wonderful World of Antonio Carlos Jobim』
アントニオ・カルロス・ジョビン『The Wonderful World of Antonio Carlos Jobim』
65年作品。ジョビンのヴォーカルを聞きたければこの作品。甘く、ささやくような声に「やられる」こと請け合いです。
1. She's a Carioca
2. Agua de Beber
3. Surfboard
4. Useless Landscape
5. So' Tinha de Ser Com Voc
6. Felicidade
7. Bonita
8. Favela
9. Valsa de Prto das Caixas
10. Samba Do Avio
11. Por Toda a Minha Vida
12. Dindi
さて、先のアルバム紹介で「作編曲家」と書いたジョビンですが、楽器演奏家としても超一流です。ピアノ、ギター、後期にはヴォーカルもこなすようになります。

いずれにしてもあまり技巧的なことをやらない人ではあるのですが、あえて「上手下手」で言うなら、本当に「上手」なのはピアノぐらい。しかしながら、圧巻なのはその歌心です。特にヴォーカルに関しては、ロックの人が聞いたら卒倒しそうなぐらいの小声でささやくように歌います。

本作『The Wonderful World of Antonio Carlos Jobim』では、そんなジョビンの小声ヴォーカルを堪能できます。

思うに、ジョビンは必ずしも小声で歌おうとしているわけではありません。声を張って下手にボーカルが際立ってしまうよりは、ボサノヴァ独特の和声とタイム感のアンサンブルを楽しむ。そうした大人の余裕が、ジョビンのヴォーカルには感じられます。

無論、彼のヴォーカルの専門家ではない、という事情もあると思いますが、異様に音数の少ない彼のピアノプレイを考えてみても、彼の美意識はアンサンブルの調和を重視しているように思います。それゆえ、ヴォーカルもおのずと抑制の効いたものとなるのではないでしょうか。

■アントニオ・カルロス・ジョビン&エリス・レッジーナ『Elis&Tom』
アントニオ・カルロス・ジョビン&エリス・レッジーナ『Elis&Tom』
アントニオ・カルロス・ジョビン&エリス・レッジーナ『Elis&Tom』
74年作品。ジョビンとエリスの歌声が絶妙に絡み合う「三月の雨」のほか、珠玉の名演がつまった文句なしのボサノヴァ名盤中の名盤。
さて、そうしたジョビンの美意識の集大成……というより、奇跡的な結晶といってもいい作品がこの『Elis & Tom』。エリス・レッジーナ(1945-82)というヴォーカリストも、ボサノヴァ創世記を語るなら欠かせない登場人物の一人なのですが、ここではすばらしいリズム感を持ったヴォーカリストということで、詳述は避けましょう。

本作の象徴的ナンバーは何といっても「三月の雨;Aguas de Marco」です。ピアノ、ギター、パーカッションに載せて、エリスとトム(ジョビンの愛称)のヴォーカルが絡み合います。

実は、私もこのギターとヴォーカル、再三コピーしているんですがなかなかモノになりません。音楽構造的にそんなに複雑なことをやっているというわけではないんですが、なんとも名人芸的な「ノリ」で、バックの演奏とボーカル、ボーカルとボーカルの掛け合いが絡み合っているのです。

ボサノヴァのノリと歌心を堪能できる一枚。本当に美しい作品です。

次ページでは、ボサノヴァミュージックの足元を支えたもうひとりの天才を紹介!
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