天才とデーモンの衝動
『カポーティ』でフィリップ・シーモア・ホフマンは、アカデミー主演男優賞を受賞。 |
『冷血』の元となった事件の取材で出会った犯人のペリー・スミスに、カポーティは、次第に心惹かれていきます。でも相手はあくまでも取材の対象。冷徹に相手の心に踏み込んでいきつつ、ペリーへの気持ちを抑えきれないカポーティの悩みが、静かに繊細に、クールな筆致で描かれています。
カポーティが作品を書き続ければ、いまだかつて書かれたことのない衝撃のルポルタージュを世に送り出すことができる反面、ペリーを苦境に陥れる可能性は極めて高くなります。一方、ペリーは、カポーティの本音を知ることはなく、無邪気に相手の好意を喜んでいます。ピカソの女性たちやジョージ・ダイヤーと同じく表現者ではないため、カポーティの心のうちに何があるのか、知る由もないのです。
カポーティだけではなく、すべての表現者の心のうちには、素晴らしい作品を仕上げたいという欲求が、沸々と煮えたぎっています。何を犠牲にしようとも、全てに代えても、極上の作品を追求していこうとする、デーモンとも呼べる衝動もあるのです。天才は、その衝動を芸術作品として形にする、感性と技術を持っている人々なのかもしれません。
芸術作品は、素晴らしいものであるほど、今までにない新しい形や意味を持っています。新しい物を生み出すには、以前にあったものを壊し、乗り越えるための、すさまじいエネルギーが、必要になります。
本人は無論、周りの人にも影響を与えずにいられないのではないでしょうか? 特に、題材を恋人など周囲の人にとった場合、相手の全てを吸い尽くすほどのエネルギーが必要になるかもしれません。
天才は、新しいものを生み出さなくてはならないため、衝動を形にし、以前のものを壊すための活力と、独善性を持っているものなのかもしれませんね。
人生のお手本としたい理想のアーティスト
生命力に溢れ、情熱的なフリーダ・カーロの生き方は、パワフルな勢いを学べるはず。 |
メキシコが生んだ近代の女性芸術家フリーダ・カーロを描いた『フリーダ』は、まさしく、そういう人生が、素晴らしい作品の原動力になったことを象徴している作品です。
18歳のときにバスの事故に巻き込まれ、奇跡的に命は取り留めましたが、30回を超える手術を生涯にわたって受け続けなければなりませんでした。47歳で亡くなるまで、後遺症の激痛は彼女と共にあり、結婚相手の有名な壁画家、ディエゴ・リベラの恋愛遍歴にも苦しめられます。
それでも、この極彩色の映画と同じように、尽きぬエネルギーで、人を愛し、作品を生み出し続けました。ロシアの革命家トロツキーとの恋愛や、時に男装で、女性を愛するなど、普通の人の何倍もの要素が詰まった濃密な人生は、他に類を見ない熱気を感じます。
描き続けた大半の作品は、「自画像」でした。さまざまな苦痛を冷静に見つめ、美しくエネルギッシュな作品に仕立て上げたのです。誰にも迷惑をかけず、むしろ励ますようなあり方は、巨匠のピカソよりも、ずっと軽やかでしなやかです。
「生き抜く」ことと「自分らしさ」にこだわった彼女の生き方は、最上の理想形といっても言い過ぎではないと思うのです。
今回の記事は、いかがでしたか? 何かを創作するほど、苦しく、同時に楽しいことはありません。アーティストの作品を見ると、何かを喚起してくれたり、気力を与えてくれたり、芸術の力の大きさに驚かされます。たまには、スケッチブックを片手に、美術館までの散歩はいかがでしょう?
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