第2の人生を海外で送る場合に必要な社会保障の手続きをご案内します
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海外生活の実態
海外で暮らす日本人(3ヵ月以上海外で暮らす日本国籍を有する人)の総数は約111万7,000人で、そのうち永住者は約36万人と全体の約32%を占めています(「平成21年度速報版外務省「海外在留邦人数調査統計」より」。国別の内訳では、最も多いのがアメリカ、次いで中国、オーストラリア、イギリスとなっています。オーストラリアがイギリスに代わって3位に順位を上げています。オーストラリアの邦人数は、長期滞在者が42.4%増、永住者が35.0%増と極めて高い増加率を示しています。外務省のコメントでは「国際結婚の増加が主たる要因であり、定年後のオーストラリアに永住することの流行の影響は定かではない」とされていますが、民間の調査による海外移住したい国のランキング調査では1位がオーストラリア、2位がニュージランド、3位がアメリカとなっています(2007年オリコン調査より)。日本と同じように四季があり、英語圏のオーストラリアは海外移住先としては人気が高いようです。
老後を海外で過ごす方法として、長期滞在(ロングステイ)と永住ビザを取得する海外移住がありますが、オーストラリアなど世界40ヵ国で年金受給者を対象とした優遇移住制度であるリタイアメント・ビザを発行しています。リタイアメント・ビザが発行されると、観光ビザより長期間の滞在が可能になります。オーストラリアの場合は最長4年間の滞在が可能で短時間の就労も認められます。55歳から制度の対象となるので、定年前に仕事を退職し、早めに海外でのリタイアメントプランを送る人もいるようです。
海外生活と日本の社会保障制度~医療保険
それでは、海外生活を送る場合の社会保障制度の仕組みをみていきましょう。社会保障制度のうち、はじめに医療保険の適用についてみていきます。海外でも国民健康保険を利用することができますが、海外で病院にかかった場合は、治療費の全額をいったん自己負担します。帰国後、自己負担した治療費のうち7割相当が還付されます。これを「療養費」といいます。
療養費の請求に必要な書類は次のものになります。
- 療養費支給申請書
- 診療内容明細書
- 領収明細書
これらの書類は市区町村の担当窓口や自治体によってはHPからダウンロードすることができますが、2.の診療内容明細書(診療内容を証明する医師の書いた明細書)と3.の領収明細書(自己負担した医療費の内訳の明細書)は、それぞれ現地の医療機関で記入してもらわなければなりません。前もって入手しておき、渡航時に持参するとよいでしょう。また、2.と3.は現地の言語で記入されているので、提出時には必ず日本語の翻訳文を添付し、翻訳者の住所・氏名も翻訳文に記入しなければなりません。
帰国後、市区町村の窓口に療養費を請求するときは、上記の書類と印鑑・振込口座が確認できるものを持参して手続します。
療養費は、原則治療費の7割が支給されますが、海外で支払った実際の治療費と日本国内で適用される保険診療費が同額になるとは限りません。そのため、実際の治療費が日本国内の保険診療費と同額か低い場合は実際の治療費の7割相当額、実際の治療費が日本国内の保険診療費より高い場合は日本国内の保険診療費の7割相当額が療養費として還付されます。
一方、永住ビザを取得して海外に移住する場合は、国民健康保険の被保険者資格を喪失します。オーストラリアなど公的な医療保障制度のある国もありますが、アメリカのように国民のほとんどが民間の医療保険を利用している国もあります。オーストラリアの公的医療保障制度は「メディケア」という制度で、リタイアメント・ビザやワーキングホリデーなどの長期滞在者は加入できませんが、永住ビザの取得者は加入することができます。保険料を財源とする日本の医療保険制度と違って、メディケアは税金のみを財源にしています。医療費の自己負担は、病院の種類(公立か私立か、あるいは一般開業医か)により異なりますが、日本と違って歯の治療や救急車の利用が保険の対象外になります。これらの医療費をカバーするには民間の医療保険に加入する必要があります。