20代の青年が、病児保育を変える
「社会を変える」を仕事にする―社会起業家という生き方 駒崎弘樹(英治出版) 元ITベンチャー経営者が、NPOで病児保育問題に取り組む |
「保育は社会の問題ではなく、個人的な問題」と捉えられがちなのが、これまでの日本の社会だ。子育てが女性の仕事と認識されている限り、女性が子どもを育てながら仕事をするというのは負担が大きく、その間は社会人として「一人前ではない」。だから、専門職や正社員としてフルタイムの仕事をする子育て女性は特殊な「先進例」とみなされていた。
そんな風土では、ワーキングマザーは社会的な支援を受けにくい。彼女たちは仕事の両立を「個人的な問題」として抱えざるを得ず、子育てのおよそ20年間を試行錯誤し、創意工夫し、それぞれに乗り切ってくるしかなかったのである。病児保育というのは、まさに子育てと仕事の両立を図るときのエアポケットであり、病気の子どもを預かってくれる保育施設はほんの限られた数しかない「保育の闇」の分野だったのだ。
多様性から生まれたイノベーション
病児保育はこれまで社会で共有されずにきた |
駒崎氏は、偶然にもガイドと同じキャンパス出身で、どうやら研究会(ゼミ)も同じだったらしく、私もかつて聞いたことのある、榊原清則 慶応大教授(イノベーション論)の名言に触れている。
「全体を救うイノベーションは、つねに多様性の中から生まれる」。
彼は、子育ての世界での様々な問題は「コップの中の嵐」に過ぎなかったのではないかと鋭く指摘する。子育ての世界は、子を持つ女性や保育関係者だけのものに限られた時代が長すぎたのではないか、だから「病児保育」という、仕事を持つ親にとって切実な問題が、社会で共有されなかったのではないかと。
彼の社会起業に対して、社会の反応は様々だ。好意的な支援もある一方、「保育を金儲けに使うべきではない」と誤解のあるネガティブな反応も寄せられる。行政からは活動を迷惑視されたり、保育業界から「これ以上親を甘やかすな」と寝た子を起こしたかのような言われ方をしたり。