連日、マスコミを賑わせている「若貴の確執問題」。これまでにも様々なニュースやスキャンダルで取り上げられてきた、有名家族の崩壊ともいえる事態に、人々の関心はとても高く、それぞれに意見もあるようです。関係者などの登場人物も多く、発言も多いものの、現状では双方の言い分は平行線をたどるのみ。いったい何が原因でこのような状況になってしまったのか、家族問題を専門とする心理学者である武蔵野大学 生田倫子先生に、花田家と若貴兄弟の分析を聞きました。(監修:生田倫子先生)
この問題のキーワードは、「あいまいな線引き」。若貴兄弟に見られる、心理的・社会的な線引きの4点のあいまいさが、根本的な原因となっていると考えられます。また、花田家を長い間どうにか押さえてきた、強力な父権が失われたことによって、花田家の秩序が崩れ、いわば「学級崩壊」を起こしてしまったのだとも言えます。
あいまいな線引き その1: 「花田家の長男」VS「相撲部屋の長男」
あいまいな線引き その2: 家族と取り巻きの密着
あいまいな線引き その3: 本当の家族とテレビの中の家族
あいまいな線引き その4: 心理的距離の近すぎる兄弟
結論:「学級崩壊」した花田家
それでは、それぞれを詳しく見てみましょう。
あいまいな線引き その1: 「花田家の長男」VS「相撲部屋の長男」
本来、父の死去に伴う跡目争いや相続の問題などは、日本の家庭ではまだ戸籍上の長男・次男という考え方で取り組まれることが多いのが一般的です。しかし花田家では相撲部屋という「会社」のような存在を、相撲の実績を残した弟が継いだようなものです。となれば、弟が「部屋を継いだのは私。兄は相撲界を退いたのだから、口を出さないで欲しい」と、主権を握ろうとするのは、自然な流れとも言えます。
しかしそこで、「花田家」の長男である兄が、母や親族を味方にして「長男は俺だ」と主張し、お互いの意見は平行線をたどるのみ。それは、双方の考え方の根拠が、兄が「戸籍的・民法的」なのに対して、弟が「会社の論理・強者の論理」と食い違っているため、そもそも交わるわけがないのです。
「会社」であれば財産は個人の資産とは別になっているのが通常。しかしながら、相撲の世界では、どうやらその線引きがあいまいであることが混乱の原因のようです。
したがって、この若貴の確執問題は、「戸籍上の原則」対「相撲界の原則」の家督争いであり、双方がまったく違ったルールで争いをしているようなものです。しかも面倒なことに、日本の感覚ではどちらも「もっともだ」と評価されてしまうので、どちらが正しいとも言うことができません。どちらかの原則に収束しない限り、問題は解決されることがないでしょう。
あいまいな線引き その2: 家族と取り巻きの密着
今回の確執問題でも、「取り巻きの人の意見を聞かずに、直接話をした方がいい」という意見があるように、花田家の人々には、それぞれに取り巻きがくっついて、事態を混乱させています。
取り巻きとは、「友人」「知人」「遊び仲間」「支援者」などとして築かれた、若貴の周辺の人間関係です。取り巻きは、決して善意の人ばかりではなく、中には若貴の知名度を利用する人もいることでしょう。このような人たちは色々なことを若貴に吹き込むことが考えられます。その中には兄弟の悪口も含まれることでしょう。
若の取り巻き、貴の取り巻き、そして憲子さんには憲子さんの取り巻き、そして亡くなった二子山親方にも取り巻きがきっといたことでしょう。こうした特殊性が、花田家の人間関係を一般の家庭の関係とは全く異質のものにし、お互いの不信感ばかりを拡大させている病巣とも言えます。家族同士が直接話さず、取り巻きの噂話を通じて情報が交換されるような歪んだ状態では、家族は正常には機能しません。
こうなっては若貴の問題も、兄と弟が話し合えばいいというほど単純ではなくなります。「兄とその取り巻き」と「弟とその取り巻き」という構図になってしまっているからです。つまり、難しくいえば「個人の境界」が拡散しているのです。
あいまいな線引き その3: 本当の家族とテレビの中の家族
このところ、堰(せき)を切ったように連日テレビ出演をしまくる貴乃花。あまりに饒舌な姿には当惑するほどです。そうやってあれこれと発言しながら、兄に向かって「花田勝氏も出て来い」と反論を要求する点も、あまりにも特殊です。
幼少時から有名家族の一員として、マスコミに追われてきた貴乃花だけに、テレビなどのメディアとの心理的な距離があまりにも近いのかもしれません。一般人ならば、テレビに映るということ自体がめったにないことですから、テレビの中の姿は特別なもののはず。しかし貴乃花は、幼い頃からテレビの中に映る家族を当然と認識してきました。また、家族の思っていることをテレビで知ることも多かったようです。テレビが家族のコミュニケーション媒体となってしまっているのです。これは、貴乃花の洗脳騒動の時に、若乃花がマスコミを利用してメッセージを伝えようとしたと言われていることとも共通すると思われます。