『ティファニーで子育てを』(文春文庫)
愛情以外のすべてを与える
これがハイソな子育ての掟
■ドラッグ・アルコール……病める母たち
この本に登場する母親たちは、経済的には恐ろしいほど恵まれているが、人間関係にも小さな幸せにさえも恵まれていない。
夫は仕事ばかりで家に帰ってこず、出張と称して秘書と不倫。それをわかっていても社交界では仲の良さと家庭円満の幸福感を演じなければならない。
家庭の中では使用人たちと子どもと自分だけ。この孤独感を癒すために、ドラッグやアルコールに走ったり、セラピーに通ったり自己啓発セミナーにはまったりする母親たちの様子が描かれる。
たまに帰宅する夫が口にすることといえば、「そういえば受験はどうなっているんだ?ちゃんと○○校には入れるように準備してあるんだろうな」。母親たちは追い詰められてゆく。
■お受験失敗、そして……
日本ほどではないにせよ、米国の上流校(幼稚園・小学校)の「お受験」の競争率もかなり熾烈らしい。お受験に失敗した子どもの母親は、何とかして他校に子どもをねじ込むものの、口さがない社交界では目もあてられない。
実際、この『ティファニーで子育てを』が出版されるとNY社交界の話題をさらい、モデルとなった家庭を探し当てるのに躍起になったそうだ。
非常に特殊な環境での、狭小な世界観。この中で繰り広げられる「子育て」にまつわるエピソードは、海の向こうの話とはいえ、どこか日本の過熱する子育てに共通するものがあるように感じる。あるいは、日本もまた、このような子育てを追いかけてしまっているのかもしれない。
孤独感の中、潔癖なほどに凝り固まってゆく母親と、無理難題を押し付けられるシッター、そして寂しく屈折してゆく子どもの姿。この本を読んだら、決してアメリカの上流階級の子育てが、雑誌やTVで語られるような「セレブ」なんて軽薄な世界ではなく、大きな病巣を抱えていることに気づかされる。
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