進化するトゥールビヨン
最後に、複雑時計技術に対するジャガー・ルクルトの取り組みを紹介しよう。トゥールビヨンの21世紀的進化を象徴する最新モデルである。トゥールビヨンとは、重力の影響によって生じる誤差を補正し、精度を高める機構を指し、この複雑機構を搭載する時計自身も一般的に「トゥールビヨン」と呼ばれる。さてそのモデルとは、「レベルソ・ジャイロトゥールビヨン2」である。ジャガー・ルクルトは、トゥールビヨンの機構を収めるキャリッジが従来の平面的な回転運動ではなく、3次元で回転する画期的な「ジャイロトゥールビヨン1」を2004年に初めて発表し、時計界にセンセーションを巻き起こした。
「レベルソ・ジャイロトゥールビヨン 2」。プラチナ・ケース、手巻き、球形の多軸トゥールビヨン搭載。3780万円。世界限定75本 |
その仕組みが非常におもしろいので、少々説明を加えたい。原理は名称のように航海で方位を確認するのに利用するジャイロコンパスとよく似ている。身近な例では、地球独楽という玩具をイメージするとわかりやすいだろう。つまり、トゥールビヨンの機構が、地球独楽のように水平と垂直から成る二つの輪(ここではキャリッジ)に収められており、縦軸を中心にして水平に回転しながら、横軸に沿っても回転が可能になる。これが「多軸トゥールビヨン」や「球形トゥールビヨン」と呼ばれる理由だ。
このシステムなら時計の精度を司る脱進・調速装置が360度あらゆる姿勢をとることになり、その結果、重力の悪影響を完全に排除できるというわけである。つまり、時計がどんな姿勢にあっても、高い精度が保たれるのである。トゥールビヨンが発明されたのは2世紀も前にまで遡るが、古典的な機構の現代的な表現を超越するものはまだごく少ない。ジャガー・ルクルトの革新が、トゥールビヨンに新たな飛躍をもたらした意味は相当に大きい。
このジャイロトゥールビヨンを、ジャガー・ルクルトの有名な角形反転式ケースに収めたのが「レベルソ・ジャイロトゥールビヨン2」である。さらに、もう一つ特筆すべき特徴は、このモデルで初めてシリンダー型ひげぜんまい(提灯ひげ)が採用されていること。かつて、最高の精度が要求された航海用精密時計のマリンクロノメーターのために開発されたこのひげゼンマイが最先端技術で初めて腕時計で実用化されたのである。トゥールビヨンとマリンクロノメーターの技術を採り入れたこの時計が、徹底的に精度にこだわった、他に類をみない時計であるのは異論の余地がない。
機械式時計の伝統技術とは、科学と人知の結晶。その貴重な遺産を生かしたこのトゥールビヨンは、知れば知るほど奥の深い複雑精密時計である。非常に高価で現実には入手が困難だとしても、時計好きの好奇心を刺激してやまないだろう。
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ジャガー・ルクルト
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