クロノグラフとは、ストップウォッチ機能

時計専門用語の「クロノグラフ Chronograph」は、ギリシア語の「クロノス chronos=時間」と「グラフォス graphos =記す」の合成語である。19世紀前半に発明されたこの種の時計の原型が、文字盤上にインクの滴を垂らして経過時間を記したことに由来するといわれている。やがて19世紀後半には、計測用の針と文字盤の目盛りを組み合わせて経過時間を計る、現在に続くクロノグラフのスタイルが確立する。

1915年、ブライトリングが世界ではじめて腕時計にクロノグラフを搭載。ひとつのボタンで全てを操作する

1915年、ブライトリングが世界ではじめて腕時計にクロノグラフを搭載。ひとつのボタンで全てを操作する


機能の点からみると、クロノグラフは、ストップウォッチに他ならない。例えばスポーツ競技などで時間を計る、あのストップウォッチである。かつてのストップウォッチは、機械式時計から派生し、計測専用の道具として別の進化の道を歩んだわけだが、この機能を時計に組み込み、時刻表示だけでなく時間計測も可能にしたのが、まさに「クロノグラフ」である。

ちなみに、「クロノグラフ」というこの言葉の使用例は幅広い。ストップウォッチ機能を指す場合もあれば、こうした機能付きの時計を指す場合もある。また、商品名などにもよく用いられている。

腕時計にクロノグラフを搭載した世界初のモデルは、1915年にブライトリングによって開発された。初期のクロノグラフは、操作ボタンが一つしかなかったが、やがて1930年代に入ると、今日一般的なリューズの上下に二つの操作ボタンを配したタイプが登場する。クロノグラフは、競技はもちろん、航空、医療、軍事、科学実験などさまざまな場面で利用された。

スタート、ストップ、リセット

現在の一般的なモデルの場合、クロノグラフの操作は、リューズの上に置かれた「スタート/ストップ・ボタン」と、リューズの下に置かれた「リセット・ボタン」の二つによって行う。

ゼニスの「エル・プリメロ」手巻きモデル。テンプ振動数3万6000回/時のハイビート・クロノグラフ・ムーブメントを搭載し、10分の1秒単位で計測ができる。文字盤のタキメーター・スケールは、クロノグラフ秒針を利用して時速を読み取るための目盛り(参考品)。

ゼニスの「エル・プリメロ」手巻きモデル。テンプ振動数3万6000回/時のハイビート・クロノグラフ・ムーブメントを搭載し、10分の1秒単位で計測ができる。文字盤のタキメーター・スケールは、クロノグラフ秒針を利用して時速を読み取るための目盛り。


まず「スタート/ストップ・ボタン」を押すと、クロノグラフ機構とムーブメントが瞬時に連結され、文字盤の中央に配されたクロノグラフ秒針が動き出す。計測の開始である。同じボタンをもう一度押すと連結が解除され、針が止まる。止まった位置の目盛りを見れば、経過した秒数が読み取れる。

「ストップ」は、たしかに「停止」だが、終了ではなく「一時中断」の状態だ。同じボタンをさらに押せば、この位置から計測が再開される。スタート、ストップ、再スタートの操作は何度でも連続して行える。

クロノグラフ秒針は、60秒で文字盤上を1周する。機械式ムーブメントの振動数によって異なるが、この秒針によって8分の1秒や10分の1秒単位まで細かに読み取ることができる。クロノグラフ秒針が60秒を超えると、文字盤に独立して設けられた積算計に経過分数と時間数がそれぞれ記録される。スタンダードなモデルの場合、30分積算計と12時間積算計がある。

計測をすべて終了したら、「リセット・ボタン」を押す。これにより、クロノグラフ秒針と積算計の針がすべてゼロにリセットされる。

二つの役割を演じる巧妙な機構

クロノグラフは、計測や積算を行っている間も、時計部分は時刻を表示し続けている。つまり、利用者からの指令がなければ単なる時計として機能するわけだが、指令があれば時計とクロノグラフという一人二役を演じることになる。

ケースの裏がシースルーで、手巻きムーブメントだと、回転ローターに遮られることもなく、クロノグラフの巧妙な機構が見えて楽しい。「エル・プリメロ」のクロノグラフ機構は、伝統に基づく非常にクラシックな設計。

ケースの裏がシースルーで、手巻きムーブメントだと、回転ローターに遮られることもなく、クロノグラフの巧妙な機構が見えて楽しい。「エル・プリメロ」のクロノグラフ機構は、伝統に基づく非常にクラシックな設計。


この一人二役のオン/オフを切り替えるのが「カップリング・クラッチ」という動力伝達スイッチだ。恒常的に秒を刻み続ける時計用の秒針、つまりスモールセコンドの針を回す4番車の軸の反対側には、「4番クロノグラフ車」が取り付けられている。この歯車と噛み合って回転しているのがカップリング・クラッチに組み込まれた「中間車」である。いつでもクロノグラフがスタートできるように常にスタンバイ状態にある。

ケースの横に突き出た「スタート/ストップ・ボタン」が押されると、「カップリング・クラッチ」が水平にスライドしてセンターの「秒クロノグラフ車」に連結(カップリング)され、クロノグラフ秒針が動き出す。もう一度ボタンを押せばストップの状態になり、連結が解除される。

クロノグラフ秒針が60秒で文字盤上を1周する「もう一つの秒針」なのは、スモールセコンドから動力をもらい、それと同じ速度で回転する仕組みになっているからだ。

興味深いのは、4番クロノグラフ車がスモールセコンドと同軸にセットされているので、裏からみると逆回転しているように見えるが、中間車を介して秒クロノグラフが回転すると、それがまた逆転し、文字盤側のクロノグラフ秒針とスモールセコンドの回転が同じ時計回りに揃うことである。

ちなみに、プッシュボタンによる操作を安全確実に実行するための要となるのが「コラムホイール」という部品で、よく「クロノグラフの司令塔」と形容される。「コラムホイール」の代わりにカムを使うムーブメントも多い。

クロノグラフの面白さは、時計として時刻を表示させながら、独立した計測機能を操作して、いつでも好きなときに時間を操ることにある。人気が高い理由は、精巧な技術やデザイン的なかっこ良さはもちろんだが、意のままに時間を操れるという、まさにこの快感にあるのではないだろうか。

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