男の腕時計/スイスの老舗高級ブランド

150周年を機に意欲を燃やすヴァルカン

アラーム付き腕時計「クリケット」で有名なヴァルカン。その歴史は1858年に始まり、スイスや東京で記念イベントも開かれた。伝統に根差したモデルに加え、本格スポーツウォッチの展開もいま話題。

執筆者:菅原 茂

ヴァルカンの知られざる歴史

スイスの著名な時計ブランドは19世紀後半に創業したものが少なくない。小規模な工房で手作りされていた時計が、近代的な産業として発展するのがちょうどこの時期にあたるからだ。ヴァルカンも、1858年にモーリス・ディディシャイムが設立した時計工房に遡る。ミニッツリピーターなど、彼が作り上げた複雑時計が世界の博覧会で次々と受賞を重ね名声を築いた。中でも特筆すべきが1889年のパリ万国博覧会。エッフェル塔がフランス革命100周年を記念して建造されたこの博覧会で、ヴァルカンは時計のほとんどの賞を独占するという快挙を成し遂げた。

ヴァルカン19世紀懐中時計
1898年パリ万国博に出品され、銅賞を獲得したヴァルカンの「ラ・ヴァレ・ド・ラルブ(アルブ渓谷)」。美しいエナメル装飾のケースに、創業者モーリス・ディティスハイムの作ったパーペチュアルカレンダー・ムーブメントを収める

しかし、最も有名な歴史の転換点といえば、1947年に世界初の実用的な機械式アラーム機構を装備する腕時計の発表だ。「クリケット」の愛称で親しまれるこの腕時計はまた、戦後のアメリカ歴代大統領に愛用されたり、1950年代から1960年代にかけてヒマラヤの登山遠征隊や海洋探検、あるいは航空の分野でも用いられるなどエピソードにも事欠かない。

だが残念なことに、ビジネスの複雑な経緯からヴァルカンの名は1986年にいったん途絶え、「クリケット」は、20世紀の終わりまでレビュー・トーメンというブランドのもとで発表された。初めてジュラ山脈のラ・ショード・フォンのレビュー・トーメンを訪れた1990年代半ばのこと。建物の屋根に大きく“VULCAIN”の文字が掲げられた古い工場で、「クリケット」の製造の様子をつぶさに取材したことは今でもよく覚えている。たとえ看板は変わっても、独創的な機械式アラーム・ムーブメントに支えられて「クリケット」は、傑作の命脈を保っていたのである。

ヴァルカン社屋
2002年に復活したヴァルカン。ル・ロックルの丘陵にある瀟洒な館に新しい工房を構える
そして、2002年。ヴァルカンはブランドとして甦り、アラーム腕時計の伝統が正当なかたちで21世紀へと引き継がれた。新生ヴァルカンは、クラシックなモデルから、複雑機能付きモデル、あるいはスポーティーなモデルへと、ここ5年でコレクションを充実させてきた。記念イベントで来日した創業者一族のミッシェル・ディディシャイム氏も、ヴァルカン復活を「これほどうれしいことはありません」と感慨深く語っていた。

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