鮮やかなカムバック
そんな1990年代のはじめ、パテック フィリップ本社が主催するプレスツアーに参加する機会に恵まれた。部品にはじまり、組み立て、複雑時計の製作、さらにはエナメルなどの伝統工芸に至るまで、全3日間、朝から晩までパテック フィリップの時計づくりのすべてを記者たちに紹介するという充実した内容のものだった。パテック フィリップの「カラトラバ」は機械式腕時計の永遠の古典 |
ご存じのように、精度の点で比較すれば、ゼンマイを動力として、歯車などの機械部品だけで動く機械式時計は、クォーツに及ばない。しかし、本物の愛好家が興味を示すのは、正確な時刻がわかれば事足る道具ではなく、こうした技術や工芸の粋を集めた時計なのである。
機械式時計の復活は、作り手側からすれば、第一に伝統技術の継承、発展に他ならない。だが、それが時計に対する価値観を変えたことは間違いない。もしも、機械式時計が人々の価値観を変えさせるほどの影響力を持たなかったとしたら、現状はもっと違ったものになっていただろう。ごく限られた愛好家の間だけで楽しまれていた機機械式時計がメーカーを刺激し、メーカーが再び取り組むようになった機械式時計がこんどは一般の消費者を刺激する。そうした螺旋のような関係に一気に弾みがついたのは、1990年代に入ってからである。このように振り返ってみると、「機械式時計ブーム」と言われるようになってから、じつはまだ日が浅いのである。
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