ボルボが次世代のSUVとして開発したXC90は、いろいろな意味でボルボらしいクルマです。まずプラットホームが恐らくボルボオリジナルとしては最後のクルマになりそうです。V70やS80などと同じプラットホームを使って作られていますが、ボルボがフォードの傘下に入った今、これ以降のボルボ車はフォード車と共通のプラットホームを使う可能性が高いので、最後のボルボらしいボルボになるかも知れないのです。
SUV市場はアメリカではすでに盛り上がっていますが、そこに後から遅れて参入してきただけに、相当にじっくりと煮詰めたクルマ作りがなされています。ボルボらしさ表現するために、アクティブ、パッシブの高い安全性を確保し、環境性能にも十分に配慮した上で、3列シートのミニバンとしても使えるSUVに仕上げています。ファミリーユースを重視するボルボらしい設定といえます。
外観デザインは見るからに最近のボルボで、インテリア回りの品質感などもスカンジナビアテイストになふれたものになっています。上級グレードには本革シートが用意されるなど、プレミアムSUVとして作られていることが良く分かります。アメリカではメルセデス・ベンツのMLやBMWのX5、トヨタのレクサスRX330などと競合するクルマで、日本でもMLやX5と比較して買う人が多いと思います。MLはいかにもアメリカ車らしい雰囲気で、あまりデキの良いクルマではありませんが、X5はSUVながらスポーツカーライクのクルマに仕上げられており、これもボルボのXC90とは異なる方向性のクルマです。
XC90には直列5気筒2500ccのライトプレッシャーターボと直列6気筒3000ccのターボが搭載されています。大きく重いXC90は車両重量が2tを超えますが、2500ccのライトプレッシャーターボでも十分な走りが得られます。こちらにはマニュアル操作が可能なギアトロニックの5速ATが組み合わされていることも、スムーズで力強い走りにつながっています。3000ccエンジンは4速のギアトロニックATとの組み合わせですが、パワー&トルクに余裕があるため4速ATで十分という気持ちにさせてくれます。
足回りはかなり柔らかめの印象です。これはいかにもアメリカ車らしい走り味で、シート高ががやや高く、高めのアイポイントということもあってレーンチェンジなどでのロールが大きめに感じられます。MLとX5でいえば、MLに近いような走りのフィールです。ただ、ロールが大きくなってロールオーバーの可能性を検知すると、スタビリティコントロールが働いてロールを抑える機構が採用されていて、安全性には十分に配慮されています。しかも3列用のインフレータブルカーテンや7人分全部に用意された3点式シートベルトが設定され、さらにロールオーバー時ボディシェルの安全性が確保されていますので、相当に安全なクルマと思っていいでしょう。ロールオーバー時にはピラーやルーフの歪みは極力抑えますが、タイヤの取り付け部などは一定以上の力が加わると折れて余分なロールをしないように設計されています。ここまで徹底しているのはボルボだけでしょう。
そんなXC90ですが、必ずしも全面的に良いところばかりではありません。いくつかネガティブな部分も持っています。まずボディが大きくなりすぎたことです。全長を4800mmに抑えながら3列シートを実現したのは直列エンジンを横置きに搭載するボルボならではのパッケージングといえますが、それでも日本で使うにはこのクルマは大きすぎると思います。またそのためもあって最小回転半径が6mと6.3mというのも扱いに困ります。さらに重量が2tを超えるのは重すぎます。
600万円前後という価格は、MLやX5に対しては十分な価格競争力がありますが、絶対的な水準が高すぎると思います。ボルボならではのSUVという魅力をいっぱいに持ったXC90ですが、日本では無条件で評価できるクルマではないのです。XC90のサイズはアメリカではちょうど良い大きさで取り回しも問題ないので、昨年のトラック・オブ・ザ・イヤーを受賞しています。全体的に見れば、優れたところの多いクルマだと思いますし、安全や環境に配慮するボルボのクルマ作りの姿勢は高く評価されていいと思います。