NSXとの出会い
2000年7月12日。僕の手元にある「NSXオーナーズミーティング」の修了証の裏には、その日付が記されている。今から5年前、本来ならばNSXオーナーだけが参加資格を持つオーナーズミーティングに取材で参加させてもらった時のものだ。この時僕は事実上初めてNSXと「出会った」。もちろんそれまでに触れてはいたが仕事ではなかったし、その当時(=91年頃)は触れても何も分からなかった頃だ。だからNSXにしっかりと触れて確かめ、走らせて、実力を知ったというのはこの時が初めてだ。
NSX開発中のデザインスケッチ |
このクルマを走らせて、東京からツインリンク栃木を目指した。時期から想像が付くように、もてぎに付くまでにかなりの体力を消耗したのだった。
ツインリンクもてぎの、ASTP(アクティブ・セーフティ・トレーニング・パーク)の2階にある教室で、座学からミーティングはスタートした。講師は清水和夫氏。実はこの取材は、モーターマガジン誌で清水氏と僕が一緒に連載をしていたページのもの。清水氏の提案で、この回ではNSXとS2000を取り上げ、ホンダのスピリットを考察する…という目的だったのだ。
座学を受けてから実際の走行。この日NSXタイプSゼロのコックピットに収まった時から感じていた「本物」の感触は、サーキットでは怖れすら抱く感触に変わった。乗り込む時、本物だけが持つ緊張感が漂っていた。この凄そうなクルマを存分に動かすことができるのだろうか? と思える緊張感だ。
そんな緊張を覚えつつも、1日存分にツインリンクもてぎを走った。そしてこの日はホテル・ツインリンクに宿泊。夜はオーナーの方や清水氏、そしてホンダ関係者の方たちと楽しいひとときを過ごした。そう、NSXオーナーズミーティングは1泊2日のコースを用意するほど充実した内容なのだ。
開けて翌日。さらに存分にNSXを堪能した。少しづつNSXに身体が慣れ、一体感が得られるようになってきた。そしてもうこの頃には最初に感じた怖れは消え去り、もっと一体になりたいという想いが強くなった。
こうして僕はNSXオーナーズミーティングを体験し、この修了証のカードを清水氏から頂いたのだった。そして僕はこの後、自分のS2000に乗って愕然としたことを今でも強く覚えている。
NSXに慣れ親しんだ身体は、当時圧倒的な性能を持つFRオープンスポーツと感じていたS2000を、まるでマツダ・ロードスターくらいのライトなクルマに感じさせた。それほどまでにNSXは、本物の感触、段違いの感触を備えていたのだった。
僕はこの日、NSXの凄さを存分に思い知らされた。実はこの日まではバブル期に生まれた、悪い意味で和製スーパーカーくらいに思っていた。が、実際にNSXに存分に触れて、そんな自分が恥ずかしく思えた。その日付が2000年7月12日だったのである。
帰り際ミーティングに参加したNSXオーナーの方に、「河口さんもNSXいっちゃいましょうよ」と言われ、僕はこの時「いやいや自分は全然買えないです」と本気で答えたことも良く覚えている。事実この頃NSXを買うなんて夢にも思わなかった。だが心の中でNSXに乗れたら…と思っていたことに間違いはなかった。