ホンダ・インテグラのマイナーチェンジは、一人の男の手に託されることとなった。男の名は、筒井研也氏。肩書きは栃木研究所にあるLPL室の主任研究員、つまりLPL(ラージ・プロジェクト・リーダー=車両開発のまとめ役)である。

失礼を承知の上で、筒井氏にニックネームを付けるならば、まず「マイチェンの魔術師」。同時に、「ホンダの『走り』を生み出す男」。なぜそう呼ばれるのか? もちろんそこには誰もが納得するだけの理由があるからだ。

今から3年前の2001年9月と11月。筒井氏はとても衝撃的な2つのマイナーチェンジ・モデルを世に送り出した。1台がアヴァンシア・ヌーヴェルヴァーグであり、もう1台がオデッセイ・アブソルートである。

ヌーヴェルヴァーグとアブソルートに共通していたのは、単純なハンドリング…という言葉ではもはや片づけられぬ、圧倒的に日本車離れした乗り味・走り味。いや、むしろ欧州車に真正面からぶつけても決して負けることのない乗り味・走り味とさえいえる。

筒井氏の言う「高バネコンセプト」に基づき開発された2台のシャシーには、それまでのホンダ車からは感じ取ることのできなかった、非常にソリッドな感触が存在した。しかもただ単にソリッドなだけでなく、それに呼応するような「いなし」が見事に実現されていたのが特徴。

2台ともクルージング中に受ける路面からの入力を深くがっしりと受け止め、ついで発生するサスペンションの伸びを最小限に抑えて、縮みよりも決して長い伸びのストロークを感じさせない=伸びた時に不安定にならない見事な感触を生み出していた。僕はそれをして当時、メルセデス・ベンツの乗り味を想ったほど。後に筒井氏に聞くと2台の開発で参考したのは、AMGの乗り味・走り味だったということが分かった。

それからほどなくして、本田技術研究所の主席研究員で、現F1車体技術開発責任者の橋本健氏に会ったとき、橋本氏がこう言ったことを強く覚えている。「今後のホンダ車の乗り味・走り味はヌーヴェルヴァーグやアブソルートのようになる」

実際その言葉は翌年に現実となった。2002年10月。7代目へとフルモデルチェンジした4ドア・セダン、アコードはまさにヌーヴェルヴァーグやアブソルートで得たノウハウがよりソフィストケイトされ、新たな時代のホンダの走りと呼ぶに相応しい、実に優れた乗り味・走り味を実現していたのである。