旧型シビック・タイプR |
これに対して旧型のコーナリングは、大分緊張感が増したものとなる。旧インテRの初期型ほどではないにせよ、新型と比べればある意味大胆とリアが動き出すような感じがあるからだ。だから旧型の場合は意識しないと、思った以上に回ってしまうことも。ただそれを抑えるからこそ、操っているという感覚も強いといえるわけだが。
この時にステアリングから伝わるフィールの違いも見逃すことができない。新型シビック・タイプRは、電動パワステを採用している。ちなみにインテRは油圧パワステ、旧型も当然油圧パワステだ。
ノーマル・シビックがそうだったように、電動パワステは、優れたステアリングフィールを出すのが難しいというデメリットがある。操舵力の違和感ある変化や、路面とタイヤのインフォメーションを伝達する部分でも不利とされてきた。
しかし新型シビック・タイプRにその心配はない。電動パワステであるにも関わらず、ごく自然な操舵力を持ち、かつ違和感ある変化も感じられない。もちろん路面とタイヤのインフォメーションもキチンと伝達される。その意味では世界でかなり優れた部類に入る電動パワステといえるかもしれない。
ただし旧型の油圧パワステが持つステアリングフィールも、それに負けない魅力がある。やはり新型がガンバっても、感覚伝達性能はわずかにこちらの方が上ではないだろうか。旧型のそれは、新型のステアリングからはあまり感じられない振動なども容赦なく入ってくるわけだが、そのデメリットこそリアルさのわけでもある。ステアリングの回転そのもののスムースさでは、旧型のそれはやや違和感を持つところもあるのだが、それでも手の平で直接路面を触れるような感じは旧型の方に強いといえる。
そしてブレーキ。新型ではインテRに採用されたブレンボこそ採用されなかったが、実際の効きやコントロール性、そしてペダルの足応えまで満足のいくものとなっている。もちろんサーキットをかなりラップしても、感触は変わらないだけの実力がある。
旧型の場合も効きやコントロール性に満足がいくが、ペダルそのものの剛性が低いことや、性能の違いからだろうか、サーキットを何ラップもすると、大分頼りない足応えになったことを記憶している。その意味ではやはり、ブレーキにおいては新型が有利だ。さらにABSの制御の進化と共にEBDが採用されたことで、安心感も大分高まっている。
旧型シビック・タイプRを走らせた時の感触を思い出してみる。そこにはスポーツカーだからこそ持っている緊張感があり、コックピットに収まる自分は、まるで我を忘れて夢中になって操作しているイメージがある。とにかく、最終的には相容れることのないクルマという機械と、激しく何かをやりとりしようとする姿勢がある。
対して今、新型シビック・タイプRをドライブした時の感触はどうだろうか。そこには旧型ほどの緊張感はなく、自分はコックピットに収まるのでなく、ごく自然にフィットするようにそこにあり、あくまで冷静になって次のコーナーに対する戦略を練っているようなイメージだ。最終的には自分と相容れることのないクルマという機械と、じっくり対話しながら合意点を見つけるような姿勢がある。 こんな具合にして、走りから受ける新旧2台の感覚の違いは実に迷えるものである。なぜなら表現の方法こそ違えど、ともに楽しさや気持ちよさというものを存分に伝えてくるからである。
洗練された、爽やかでスマートな印象さえも持つ新型と、粗野な部分も魅力とし、熱さとその全てをさらけ出す旧型……これは単純にどちらが良いとは言い切れない。
新しさが持つ未知の魅力と、古きが持つ未だ激しく共感できるものの魅力。どちらに価値を置くかはやはりドライバー自身が持つ感覚とのマッチングによるところだろう。
(この原稿は、(株)ニューズ出版発行の新型シビック・タイプR パーフェクトガイドに寄稿した原稿を元に加筆修正を加えたものです)