市場に受け入れる体勢が出来ていないと優れた発想も育たないのだろう。1982年に登場した初代プレーリー、現在のリバティの前身となったモデルだが、これもその「早すぎた天才型」の1車だ。ハイト系ステーションワゴン型プロポーションに3列シート。センターピラーレスのリヤスライドドアという斬新な設計を採用。ミラージュベースに開発された3列シート車のシャリオ共々SSW(スーパースペースワゴン)という呼び方で、新しい自動車の楽しみとジャンルを提案した。発想は現在のステーションワゴン型ミニバンとまったく同じだが、時代がバブル経済へと進む中では一部のユーザーに熱烈に支持されただけで終わってしまった。
ニッサンの「早すぎた天才型」でもう1車印象深いモデルがある。久しく忘れていたが、ホンダ・エディクスのティーザーキャンペーン(事前広告)で、そのティーノが思い出された。詳細は不明だが、エディクスは2列シートの6名定員を特徴にする。つまり1列3名掛けである。1列3席を独立形状として多彩なシートアレンジを可能としたのが特徴だが、3名×2列のシートレイアウトそのものはティーノがすでに採用していた。
ティーノは1998年12月に新趣向の「快適・快速 ハイトワゴン」としてデビューする。4/6分割の前席ベンチシートと3分割の後席ベンチシートにより、4270mmの全長で6名定員を実現していた。後席は3席共に独立してダブルフォールディングによる収納と着脱が可能。中央席バックレスト背面をテーブルとして活用できるなどの多彩なシートアレンジができた。
街乗りにも扱いやすいコンパクトカー並みの全長に6名乗ってもワゴン並みの荷室を備えたキャビンである。使い勝手のよさから、当時購入ガイド記事を書いた時は注目の1車として常に名を挙げていたくらいだ。
ところが販売は伸びない。要因のひとつが1760mmの全幅と言われた。今なら短い全長に3ナンバーワイドボディも珍しくはないが、当時の国内モデルではかなり斬新なプロポーションである。もうひとつ考えられたのが価格である。コンパクトサイズながら搭載エンジンは1.8/2L。2L車にはCVTを奢っている。エンジンもシート機能も充実させたせいもあり、最も安価なモデルでも169.7万円、2L車は189.6万円からの設定。コンパクトカー並みのサイズで、価格は2Lセダン並みである。
当時のリバティのLが180.8万円、売れセンのL-Aパックが189.8万円。同じ2Lで多人数乗車に対応しているとはいえ、キャビンの多用途性や外観から受ける車格感からすればリバティを選ぶのは当然だろう。となれば、ティーノは取り回しのよさくらいしか売り物がなくなってしまう。
その後、ティーノは2000年4月のマイナーチェンジで前席を一般的なセパレートシートにした5名定員仕様を追加。2002年10月の最後のマイナーチェンジでは1.8L車の5名定員仕様のみとなり、後席の多用途性は維持したものの、ちょっと多才なショートワゴンとなってしまった。
エディクスへ大きな期待を抱いている。その思いの大半はティーノへの期待と同じである。街乗りにも便利なボディサイズに多才な機能と楽しみを満載。街から長距離のレジャードライブまで気軽に楽しめる。スニーカー感覚のマルチパーパスヴィークル。そんなクルマがあったらと考える人も多くなったのではないだろうか。
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