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意外や上質なスパシオの走り 今さらだけどスパシオ01

久しぶりにスパシオに試乗する機会を得た。登場から3年以上経ったモデルだが、改めて走らせてみればまだまだ見所の多いクルマである。走りの質感はベースとなったカローラセダン以上といっても過言ではない。

執筆者:川島 茂夫


スパシオに試乗するのも久々である。新型車ラッシュの時期は試乗しても記事化されないことも多く、たまには見直しがてらの試乗記もいいかな、と思い採り上げてみた。

カローラ・スパシオの車名どおり、カローラをベースに開発され、搭載エンジンの1NZ-FE(1.5L)、1ZZ-FE(1.8L)も共通した設定である。それでいて全高も高くなれば、車重も重くなる二重苦を背負うのだから、走りを期待するわけにはいかない。

となるはずのなのだが、ところがどっこいなのである。高い重心、しかもサードシートまで備えたキャビンである。7名乗車の高速走行や山岳走行も考慮しなければならない。相当厳しい条件なのだが、だからこそ奮起したのか、なかなか妙味のあるチューニングポイントを見出している。走りの好みにもよるのだろうが、個人的にはカローラセダンよりも好ましい。単純に速さだけを比較すれば、重い車重はそのままハンデになるのだが、味が何とも大人っぽいのである。重みがいいほうに作用しているのだ。

まず第一の長所がストロークの滑らかさ。小さなストロークから渋さを感じさせない。しかも加減速やコーナリングで深くストロークした時には、粘り強く車体の揺れ返しを抑え込もうと作用する。取り付け部のゴムのたわみ(コンプライアンス)で誤魔化していない。ひょっとすると誤魔化しているのかも知れないが、そういった動きも含めてサスがしなやかにストロークしているように感じられるのだ。

重心が高い上に車重(積載込)も大きければ、必然的に車体の動きは鷹揚になる。重さ分、共振数が低くなるわけだ。低い周波数の動きは重厚感とか落ち着きの源になるわけだが、そのままにしていれば動きの収まりは悪く、何とも頼りない乗り味になる。かといって、硬いサスチューニングでまとめれば、前後左右の挙動が神経質になり、せっかくの重みが生み出す落ち着きは失われる。

この辺りの案配は重く高い重心のミニバンやSUVの走りを考える時の要点である。ハンデを力業(硬さ)で押し込めばキビキビした運転感覚も得られるだろうが、加減速やコーナリング時の前後や左右の負荷が大きく変化しやすい。ロールやピッチの変化を抑え込んでしわ寄せはタイヤに掛かる負荷の変動に現れる。

よく言えばスポーティな味わいなのだろうが、それも雰囲気だけであり、本質的な性能の向上とは違っている。

重さも高重心高も決め手は「往なし」である。しっかりとストロークを採りながら、唐突な動きを抑えるのが重要だ。

スパシオで感心するのはここなのだ。もちろん、コンパクトカーなのでもっと大きく重いクルマのような重厚さや車格感はないものの、横並びで比較するならばミニバン系に限定するまでもなく、コンパクトカーでは上質な走りを実現している。

もっとも、パワーのゆとりだけはどうしようもなく、1.5Lで必要十分程度。速度が高くなればエンジンに負担を掛けているのがヒシヒシと伝わるし、ATの変速も頻繁になりやすい。1.8Lならば高速や山岳路でも余裕が生まれるが、コンパクトクラスの経済性が失われるのがちょっとシャク。キャラクターからすれば1.5Lか、でも余裕が・・、こういった悩みが出てしまうのが走りの泣き所である。

面白いもので、同様の傾向はヴィッツとファンカーゴにも見られる。カローラとスパシオ、ヴィッツとファンカーゴはいずれも開発チームが異なっているのだが、スパシオもファンカーゴも開発チームは物理的なハンデの克服に積極的であり、その結果がベースモデルと同等以上の上質な走りに繋がっている。

「その割にはスパシオもファンカーゴも、クルマ好きの話題にあまり上らないじゃないか!!」と言われると返す言葉もないが、イメージも道具に割り切ったクルマのようで、そういうクルマの走りは誰も期待していないのだろう。しかも、どちらも極めて現実的な考え方にも関わらず、対象ユーザータイプをかなり限定している。つまり、コンセプトに一般性がない。たからこそ、はまる人には換えるもののない存在になる。この辺りは次の記事で解説してみたい。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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