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レース業界は終わってしまうのか?(1)(2ページ目)

今やモータースポーツ業界は暗いニュースが次々に出てくる「冬の時代」を迎えている。レース業界は本当に終わってしまうのか?3回シリーズの第1回はF1などの世界選手権に目を向けます。

辻野 ヒロシ

執筆者:辻野 ヒロシ

モータースポーツガイド

F1:プライベーターの時代でどう変わる?

自動車メーカーのF1撤退を一番嘆いているのは誰あろうメーカーと仕事をしてきた関係者であろう。開発者、メディア、広告代理店など多くの人たちのビジネスが立ち行かなくなってしまう。そして小林可夢偉など日本のメーカーに育てられたドライバーもしかりだ。

しかし、ファンはどうだろうか?全世界的に人気の高い「フェラーリ」を除けば、特定のメーカーに感情移入するのは日本独特の文化のような気がしてならない。「ホンダ」ファンが今年F1を見なくなったのか?というとそうではないだろうし、「トヨタ」ファンが来年からF1を全く見なくなることもないだろう。仮にトヨタに一筋の希望をくれた小林可夢偉がどこかのチームから参戦を決めれば、熱烈に応援するのではないだろうか?

結局のところ、F1は「フェラーリ」を除けば、ドライバーに感情移入して楽しむレースであり、どこのチームに誰が乗り、誰を倒すのかが重要なファクターなのだ。仮に特定のメーカーに感情移入したファンばかりだったとしたら、日本グランプリで独走した「レッドブル」のセバスチャン・ベッテルにあんなに拍手喝采が送られることもなかっただろう。自動車メーカーというものは確かにF1を華やかにするが、最大の注目点ではないのである。
日本GPは優勝目前のところまでいったトヨタ。ホンダなき日本グランプリで、鈴鹿のファンは熱い声援を送り続けた。
【写真提供:Bridgestone Motorsport】
ヨーロッパでも同じかもしれない。ここ数年、ヨーロッパでのF1人気は下降を続けているが、仮に「メルセデス」「BMW」「ルノー」を熱烈に応援するファンが多ければヨーロッパのサーキットはもっと多くの集客ができるはずなのだ。しかし、実際には満員ではないわけで、かつては超満員だったスペインGPもアロンソの数年に渡る低迷で空席が目立った。ドライバーの頑張りやスーパーパフォーマンスがもっと見れなければ、目の肥えたヨーロッパのファンにとってF1は面白くないのであろう。

けれども、来年はポジティブな要素が多い。アロンソがフェラーリに移籍するのでヨーロッパも少しは盛り上がるはずだ(イタリアGPはマッサのファンが優勢か?)。また、新生「メルセデスGP」はニコ・ロズベルグとニック・ハイドフェルドのドイツ人を起用すると噂されており、もしオールジャーマンチームが誕生すれば、これはこれで盛り上がる要素にもなり得る(ロズベルグ、ベッテルならなお良いが・・・)。また英国のプライベートチームになってしまう「マクラーレン」も英国色を強めるかもしれない。ルイス・ハミルトンのチームメイトにジェンソン・バトンが有力候補としてあがっており、オールイングリッシュチームとなれば英国で再加速の兆しがあるF1人気に拍車がかかるかもしれない。
フェラーリ入りが発表になり、上機嫌だったアロンソ。今のF1でカリスマ性にあふれチャンピオンとしてのオーラがあるのは彼くらいである。フェラーリでどんな活躍を見せるか、それもF1の未来を左右するファクターだ。
【写真提供:Bridgestone Motorsport】

F1:新規参入チームにも大きなビジネスチャンス

F1の自動車メーカー色が弱くなることで、プライベートチームはこれまでF1と関わりが少なかった国との関係を強めていく可能性が高い。今年はド派手な施設がウリの「アブダビGP」が大成功をおさめたし、「シンガポールGP」のナイトレース、スペイン・バレンシアの市街地での「ヨーロッパGP」も人気の的である。さらに来年からは「韓国GP」が加わり、今後は「インドGP」「ロシアGP」などの開催が計画されている。F1は将来的に著しい経済発展が期待されている国々とさらに強く結びつきを持っていくことになるだろう。
華やかに開催された「アブダビGP」のヤス・マリーナ・サーキット。石油産油国は今後、ヨーロッパのバカンス客を相手にしたリゾートに力を入れ観光国としての発展を狙う。日本への就航を予定しているアブダビのエティハド航空もリゾートでのレース開催も仕掛け人はヨーロッパ人である。
【写真提供:Bridgestone Motorsport】
これらの新規開催国の企業にとってみればグローバルに企業名をアピールすることは大きな意味合いを持つ。F1は「オリンピック」や「ワールドカップサッカー」と並んで世界的な広報活動が可能なスポーツイベントであり、その影響力は絶大だ。

今後は見慣れない企業がF1へと続々と進出してくるだろうが、思い起こせば、20年前のF1もそうであった。F1の主要チームのマシンはバブル景気に踊った日本企業の泡銭によるスポンサーロゴが多数見られたし、「ブラバム」「レイトンハウス」「フットワーク」など日本人がオーナーを務めるチームも多数存在した。もはや今となっては懐かしいが、今度は日本ではなくアジアの国々やロシアなどの番なのだ。プライベートチームにとってはそういったマネーの流入は大きなビジネスチャンスであり、この厳しい時代にF1に新規参入しようとするチームが多いのもうなずける。

一部のマニュファクチャラーと大勢のプライベーターの時代。マニュファクチャラー全盛の時代からF1を見始めたファンにとっては見劣りする姿になるのかもしれないが、新しい時代の方がエキサイティングなレースを見れるかもしれないという期待もある。世界的に経済が好転し、「ハイブリッド」「ディーゼル」などのレーシングエンジンが出られる準備が整った時、再びマニュファクチャラーの時代は来るであろう。これからその時までは、しばし純粋にレースを楽しめる、ファンにとって「良い時代」になることを祈るばかりだ。

次のページではMotoGPなど世界選手権レベルのバイクレースについて解説します。
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