年金

年金制度、今後どうなるの?(3ページ目)

8月の総選挙の結果、9月に誕生した新政権。新政権のもと年金制度は今後どのような改正が実施されるのか、民主党マニフェストから予想します。

原 佳奈子

執筆者:原 佳奈子

年金入門ガイド

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一元化で公平な年金制度へ

公的年金の一元化の予定は?
年金制度の一元化は、自民党政権下の年金制度改革の中でも取り上げられたことがありますが、民主党の年金制度一元化は以下のようなしくみです。
 
  1. すべての人が同じ年金制度に加入する
    現在の公的年金はおもにその人の職業で加入する制度がきまり、転職や結婚などのタイミングで種別変更の手続きが必要だが、制度を一元化することで手続きが不要となることを目指す
  2. 所得比例年金と最低保証年金の創設
    年金制度の一元化に伴い、すべての人が所得に応じた保険料を負担し、納めた保険料から年金額を計算する「所得比例年金」を導入する。同時に、消費税を財源とする「最低保証年金」を創設し、すべての人が最低でも月額7万円の年金が受給できるに制度設計を行う

民主党案の年金制度一元化は、保険料を財源とする所得比例年金と税金を財源とする最低保証年金を支給するもので、現在のスウェーデンの年金制度によく似ています。また、「所得比例年金が一定額を超える場合は、最低保証年金を減額する」という調整があるので、この年金制度を図式すると以下のようになります。
 


公的年金の一元化は平成25年度までの法案成立を目指しています。財源を全額税金とする最低保証年金のような年金制度はこれまでの年金制度とまったく異なる制度ですが、短期間での制度改正には国民の混乱も予想されます。国民のセーフティネットである社会保障制度を根底から変える法律の改正には慎重な議論をしてほしいものです。

また、最低保証年金の主な財源とされる消費税については、子どもから高齢者まで広く国民が負担する税金です。最低保証年金の財源となることを理由に将来消費税率の引き上げが必要となった場合、年金を受給している世代から理解が得られるか、あるいはこれまで保険料を負担できる収入があるのに未納だった人の年金額をどうするのかといった、現在の制度の保険料負担とのバランスをとることも課題となるでしょう。

保険料を財源とする所得比例年金についても、自営業者の所得のとらえ方が1つの課題となるでしょう。会社員の所得は給与を支払った会社が年末調整により正確な金額を計算して申告されますが、自営業者の所得は本人の計算による確定申告で決定します。自己申告の自営業者に対して、会社員が不公平感を持つ可能性が高いと思われるので、どんな方法で所得を把握するのか十分な議論が必要でしょう。

最後に、自民党時代に国会に提出され廃案となった改正案の主なものに、「パート労働者への厚生年金適用拡大」と「被用者年金の一元化」がありました。

現在の基準では、パート労働者に厚生年金の加入義務が生じるのは、1週間あるいは1日の労働時間の長さがフルタイムの労働者の4分の3以上となる場合です。廃案となった改正案ではこの加入基準を以下の3つの基準すべてを満たす場合に厚生年金の加入義務が生じるとするものでした。
  • 1週間の所定労働時間が20時間以上
  • 賃金が98,000円以上
  • 勤務期間が1年以上
また、現在年金制度の2階部分にあたる被用者年金制度は、民間企業の会社員が加入する厚生年金と公務員と私立学校の教職員が加入する共済年金の2つの制度があります。廃案となった改正案ではこの2階部分を厚生年金に統一して年金の支給水準と保険料の負担水準を厚生年金に合わせ、共済年金の3階部分にあたる職域加算を廃止するものでした。

このように廃案となった年金制度の一元化は、1階部分の国民年金は現状のままで2階部分にあたる被用者年金制度の一元化、あるいは被用者年金の適用拡大を図るもので、民主党の主張する一元化とは異なる内容でした。

年金制度の一元化のほかに7月の国会で廃案になった年金制度に関連した法案には、確定拠出年金の掛金拠出の改正 国民年金任意加入者の国民年金基金への加入に関する改正などがありました。

※企業型の確定拠出年金は掛金を拠出できるのが企業のみですが、従業員の掛金拠出額に応じて企業が一定額の掛金を拠出するマッチング拠出が改正案として提出されました。

民主党中心の連立政権が誕生して約1ヵ月。年金制度だけでなく、国全体の制度がどのように変わっていくか注目が高まっています。年金制度改正は、雇用状況や経済情勢の問題も大きく影響することが予測されます。少子高齢化も進む中、公的年金制度の改革については与野党を超えた話し合いの中、十分議論されるべきです。私的扶養の時代に戻ることなく、若い人たちも安心できるような安定的で公平な年金制度が確立されることを期待したいと思います。

※この記事は、掲載当初協賛を受けて制作したものです。

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