病院の8%が産科を閉鎖していました


あなたの町にも産科をやめてしまた病院やクリニックがないでしょうか?産科医が激減する地域が次々と出ています。朝日新聞の調査では、この1年半で、全国の病院の8.3%が分娩の取り扱いをやめていることがわかりました(2006年5月14日付)。

産科は「労働条件が過酷」などの理由で若手から敬遠される傾向が続いていましたが、研修医制度が変わったことで一気にその配置図が変わりました。若手医師が病院を選ぶ際の自由度が高まり、また各科を回って研修するようになったことで、「都市にある魅力ある病院」「自分のQOL(生活クオリティ)も守れる科」に集中してしまったのです。

病院の医師は、多くが、医師の派遣センターとも言うべき大学の医局から送られてくる仕組みです。ところが地方大学医学部の医局では新しいバッターが来ません。そして、今まで医師を送ってきた病院から医師の引き揚げをはじめ、地域の中小病院は産科閉鎖になってしまうのです。

産科医の不人気-理由は医療訴訟

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医師の医療訴訟率。左から全医師平均、小児科、内科、整形外科、外科、産婦人科。赤で示されている産婦人科は医師平均の2.5倍も訴えられている。(平成15年最高裁調べ)
多くの医師は、産科が倦厭される理由の筆頭は、医療訴訟が多いことだろう、と言っています。確かに、右のグラフでもわかるように、医療訴訟は科によって大きく違い、外科系では高くなります。

産婦人科は帝王切開などを行う外科であるばかりか、分娩というものはいつどう急変するかわかりません。また、亡くなる方の年齢が若い女性や赤ちゃんで余命が長いのも特徴です。ですから、訴訟の金額も高くなってしまいます。

「限界を超えた」と言い出した医師たち


夜間の分娩につきあい、人手不足の中ふらふらになってがんばっている産科の先生たち。しかも、そのがんばり甲斐が感じられない状況ができています。中でも、産科医が大きな打撃を受けたのは、福島県の産科医逮捕事件でした。医師の過失かどうか不明瞭なケースで、産科医が刑事事件に問われてしまったのですから。

訴訟が起きなくても、生き残ったところは大混雑です。周囲で産科がなくなる度にその分の妊婦さんが押し寄せます。残ったところは、質のいい仕事をしてきたからこそ生き残ったという面もあったでしょう。ところが、生き残ったがために、否が応でも混雑によるトラブルが出ています。

これからのお産は「医師が身を守るお産」に


これからのお産の形は、医師が身を守るお産になっていかざるを得ないでしょう。産科医が過労で倒れないということはもちろんのこと、訴訟に強いお産をしていくことになるでしょう。

訴訟に強いお産とはどういうお産かというと、万が一お母さんか赤ちゃんが亡くなったり障害を負ったりしたとき、医師が過失を問われにくいお産です。例えば、裁判では、医師は万全を尽くしたように見えるほど有利ですので、帝王切開をしていておけば最高の手を尽くしたことになります。

こうして、帝王切開の実施率が増えていく可能性があります。陣痛誘発によってスタッフの多い昼間に産む計画分娩も増えそうです。

陣痛を待つ妊婦用の宿泊施設が登場?


産科の数が少なくなれば、遠い産院へ行かざるをえない人が増えます。それが通える範囲を超えてしまう地域も出ます。そういう場合は、病院が産婦さん用の宿泊施設などを作り、予定日が近づいたらそこに泊まって陣痛を待つ、ということになるかもしれません。

分娩料が値上げされるでしょう


また、産科医の大変な労働に公正な見返りができているかという観点から見ると、現在の分娩料は不十分だと考えられています。現況では、高額な訴訟額を背負いきれないのです。これから、分娩料が上がってしまうことは避けられない様子です。

きびしい結論を言いましょう。これからのお産は、大混雑の産科へ、遠い道のりを、高いお金を出してかかって、しかもケア面は今までより低くなりかねません。産む人がそれだけの負担を引き受けていかないと、産科はなくなってしまうということなのです。

皆さんにはどれだけの覚悟がありますか?ひとりひとりが危機感を持って考えていかなければならない時代になりました。

そしてこのような時代にあって産院を選んでいくということは、今までと同じ感覚では選べなくなっていくと思うのです。

*使用したグラフは、産婦人科医・早乙女智子先生の作成したものをご厚意でお借りしました。



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