名前に使える漢字が、必ずしも名前に向く字ではない
常用漢字や人名用漢字には、名前に向かない漢字がたくさん含まれている
このように私たちが日常使っている漢字はほとんど名前に使えますが、逆に言えば名前に使える字は、大半が名前に向かない字だ、ということでもあるのです。
戸籍法第50条では、「名前には常用平易な文字を用いなければならない」と決められています。それは、人の知らないような特殊な字は多くの人に迷惑をかけて社会が混乱するので、常に用いるような平易な字にしなさい、という趣旨のはずです。つまり名前というのは社会を維持するためのものですから、人に迷惑をかけ、社会を混乱させるような字は名前に使うべきではないのです。
しかし実際には常用漢字や人名用漢字の範囲というのは、名前に向くか、名前に入れて支障ないか、ということはまったく考慮されずに決められています。それを全部いいですよ、と言っているわけですから、名前に向かない字はたくさん含まれているわけです。
こんな漢字も使える
たとえば常用漢字や人名用漢字には、「黎」、「璽」、「螺」、「繭」、「彙」といった字がありますが、これが常用平易な字といえるでしょうか。また「死」、「病」、「毒」、「敵」、「泣」、「豚」、「蛇」、「悪」、「汚」、「盗」、「貧」、「葬」、「殺」、「罪」、「墓」、「訃」、「怨」、「淫」、「溺」などの字もありますが、こんな字を本当に名前に入れて支障ないのでしょうか。それだけではありません。電話で説明のできないような字、活字に変換できない、手書きでしか書けない字もかなり含まれています。そういう字を名前に入れれば本人も不便ですし、世の中で多くの人が被害を受けます。
このように、名前に使える漢字の範囲には、名前に向かない字がたくさん入っています。お子さんの名づけの際は、名前に使える字かどうかより、名前に向く字かどうかを注意して下さい。名前に使えない字を出生届に書いてもどうせ役所が受理しません。でも、名前に向かない字を書いても、役所は何も言いませんから、それこそ親の責任です。
要望や訴訟は世の中に迷惑をかける
「名前に使える漢字を増やせ」という要望や「この字を使わせろ」という個人的な訴訟は、これまで何度も行われてきましたし、今も続いています。でも、名前に使える字が増やされる時、それが名前に向く字であるかどうかは一切吟味されません。そのリスク、責任はすべて私たち国民が負うのです。
名前というのは、人が知らないような字であれば、それだけで大きな難点です。常用漢字や人名用漢字に入らない字で、名前に向く字などほとんどありません。その範囲で名前を作れないなら、妙な名づけをしている可能性があります。要望や訴訟というのは、無駄な税金が使われ、名前に不向きな字が増やされるだけのことですので、もうやめたほうがよいでしょう。
今の日本の中年以上の人が知っているおよそ2000字の漢字を使ってさえ、間違った読み方の名前、人に読めない名前がたくさんつけられています。そのほうが問題であり、使える漢字が足りないということはないのです。
※画像提供 子供や赤ちゃんのイラストわんパグ