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時差ボケ対策・解消法・効果的な薬…海外旅行を快適に!

【医師が解説】「海外旅行は時差ボケがつらい」「海外出張は時差ボケがひどくて仕事にならない」。新型コロナウイルスの影響でしばらく海外旅行などは難しい状況が続きそうですが、睡眠医学のプロとして時差ボケを予防する秘訣と、旅行中や帰国後に快適に過ごすための時差ボケ解消法をご紹介します。

坪田 聡

執筆者:坪田 聡

医師 / 睡眠ガイド

時差ボケが治らずずっと眠い……時差ボケしない方法はあるの?

時差ボケ対策・解消法・時差ボケに効く薬で海外旅行・海外出張を快適に

時差ボケ対策の基本は、まず、敵を知ることです

長い休みを取りやすい時期は、海外旅行もラッシュとなります。今年は新型コロナの影響で旅行は難しい状況が続きそうですが、晴れて海外旅行が解禁となってからも、せっかくの旅行が眠気で台無しになるのは避けたいものです。特にアメリカやヨーロッパへ行く人の多くが、時差ボケに悩まされます。これは仕方のないことなのでしょうか? 今回は、時差ボケの症状を少しでも早く解消するためのヒントをご紹介します。

<目次>  

「時差ボケ」とは睡眠医学的には「時差障害」……症状チェックリスト

一般的に時差ボケと呼ばれているものは、睡眠医学では時差障害と言います。国際的な診断基準に従うと、次の3項目に当てはまる場合が、時差障害です。
  • ジェット旅客機に乗って、少なくとも3時間以上の時差がある場所へ旅行したときに、不眠や過眠を自覚する
  • 旅行後1~2日以内に、昼間の心身の機能が落ちたり、全身がだるくなったり、胃腸障害などの体の症状が出る
  • その睡眠障害は他の睡眠障害や内科・精神科的な病気、薬物の使用などでは上手く説明できない
時差ボケによる症状で最も多いのは、もちろん睡眠障害です。パイロットを対象に行った調査では、67%の人が睡眠障害を訴えていました。睡眠障害を訴える人の10人に1人に、日中の眠気だけではなく、知的な作業能率の低下や疲労感、食欲低下が見られました。他にも、ぼんやりする、頭が重い、胃腸障害、目の疲れ、吐き気、イライラ感などの症状が起こります。
 

時差ボケはいつまで続く? 到着2~3日後がピークの場合も

鉄道や船で人々が移動していた時代には、まだ時差ボケはありませんでした。英語で時差ボケのことを、jet lagと言いますが、ジェット機で世界を旅することができるようになってからの比較的新しい問題なのです。

なぜ、時差ボケが起きるのでしょうか? 高速度で時差がある場所まで移動すると、体内時計と現地の生活時間がずれてしまいます(外的脱同調)。さらに、体内時計がコントロールしている体温やホルモンの分泌、睡眠・覚醒のリズムが、それぞれバラバラになってしまうことが、症状をひどくします(内的脱同調)。時差ボケの症状は、目的地に到着した直後が最も強いように思いますが、実際には2~3日目が一番辛いことがあります。これは外的脱同調が到着直後が最もひどく、その後時間とともに解消するのに対して、内的脱同調は到着2~3日後にピークになるためです。

時差ボケの原因は?時差ボケする人・しない人の違い

星条旗
ハワイやアメリカ本土へ行くときは、時差ボケ対策を十分に
驚くことに、パイロットを対象とした時差ボケの調査では、9割近くの人が何らかの時差ボケの症状に悩まされていました。しかしその一方で、1割弱の人はまったく時差ボケを感じずに生活しているということです。この違いはどこにあるのでしょうか? 時差ボケの症状に影響するものとして、次の4つのものが知られています。

朝型と夜型
早寝早起きが得意で、活動のピークが午前中にある朝型人間は、宵っ張りの朝寝坊で、活動のピークが夕方にある夜型人間よりも、時差ボケの症状が強く出ます。これは、朝型人間の体内時計が、生活リズムの変化に順応しにくいためと考えられています。

■年齢
若い人に比べて中高年者は、時差ボケによる睡眠障害や日中の眠気・疲労感が強くなり、睡眠の効率も悪くなります。時差ボケからの回復も、歳をとると遅くなってきます。

■性格
神経質でナーバスな人や内向的な人は、時差ボケの回復に時間がかかります。人と会話したり遊んだり、あるいは仕事をすると、生体時計の調整が早く進みます。内向的な人は、外向的な人に比べて、これらの社会的同調因子が少なくなるため、症状が長く続くのです。

■飛行の方向
日本からハワイやアメリカへ向かうことを東行きフライト、ヨーロッパ方面へ行くことを西行きフライトと言います。人間の体内時計は1日が約25時間なので、東行きは体内時計の調整がしにくく、時差ボケの症状が強くなります。それに比べて西行きは、体内時計の調整がしやすいので、症状が軽いことが多いようです。

体内時計が時差を調整できるのは、東行きで1日につき1時間、西行きで1時間半とも言われています。

時差ボケ対策……出発前の準備・飛行機内・現地でできること

アイマスクと携帯枕
アイマスクと耳栓、携帯枕は、忘れずに機内へ持ち込みましょう
時差ボケ解消の基本は、なるべく早く体内時計を現地時間に合わせることです。とはいえ、2~3日程度の短い期間の滞在なら、日本時間のまま行動したほうが、帰国後に生活リズムを早く取り戻せます。臨機応変に対応してください。

■出発前に準備しておくこと
睡眠不足は時差ボケの症状を強くします。出発前はいろいろと忙しいでしょうが、昼寝マイクロスリープを取り入れるなどして、なるべく睡眠時間を確保するようにしましょう。出発の1週間ほど前から、東行きフライトでは早寝早起きを、西行きフライトでは遅寝遅起きを心がけましょう。そして、出発日ころには、現地の時間に近付けるようにするのがベストです。

■飛行機の中での過ごし方
機内では、現地の時間に合わせて睡眠をとります。現地が夜なら眠り、朝になったら起きましょう。眠る準備として、アイマスクや耳栓を、機内に持ち込むことをお忘れなく。また、眠れないときには、アルコールを少し飲むのも良い方法です。しかし、飲みすぎは禁物。飛行機の中は気圧が低く酸素も少ないので、地上に比べて酔いが早く回ってしまいます。

目を覚ましておくためには、コーヒーなどでカフェインを摂ると効果的です。ただし、カフェインの作用は若い人で1~2時間、高齢者では5時間以上も続くことがあるので注意が必要です。機内を歩くことは目を覚ます効果以外に、エコノミークラス症候群の予防にも役立ちます。実践する場合は、他の人の迷惑にならない程度に行ってください。

国際線では、到着地の時間に合わせて食事が出てきます。このとき、少しでもよいですから、食べておきましょう。胃腸には、第2の体内時計があります。食事することでこの体内時計が、現地の時間に合ってくるからです。また、機内はとても乾燥しているので水分補給もお忘れなく。脱水状態でいると時差ボケの症状が強く出ます。さらに詳しくは、「長時間フライトを快適に過ごすコツ 」をご覧下さい。

■現地で気をつけたいこと
日中に到着して、どうしても眠いときには2~3時間ほど仮眠をとります。あまり長く眠ると、夜の睡眠に悪影響が出ます。時間になったら眠くてもがんばって目を覚ましましょう。起きたら屋外に出て、太陽の光を浴びると、体内時計の調整が進みます。アメリカ西海岸へ行く場合、着いた日は午後から、2日目は午前10時ころから、3日目は朝起きてから、太陽の光を浴びるのが最適です。

夕方以降に飛行機が着いたときは、現地の時刻に合わせて眠るようにします。目がさえて眠れない時は、ぬるめのお風呂に入ってリラックスしたり、夕食のときに適量のアルコールを飲んだりするとよいでしょう。

朝、起きたら熱めのシャワーを浴びると、目が覚めやすくなります。熱いお湯は交感神経を刺激して、活動的な1日を過ごすための準備をしてくれるからです。

時差ボケに効く薬はある? 睡眠薬、メラトニン、B12等

薬
薬は、最後の手段です
日本にいる間に睡眠のパターンを変えられなかったり、飛行機の中で上手く調整できなかった場合には、最終手段として薬を使いましょう。

■睡眠薬
最初の1~2日に、作用時間が短い睡眠薬を飲むと、十分な睡眠時間を確保できて、日中の眠気が少なくなり、パフォーマンスも改善します。トリアゾラムやブロチゾラム、クロナゼパムなどが有効です。ただし、アルコールを睡眠薬と一緒に摂ると、一時的な記憶喪失などが起こることがあるため、注意しましょう。

■メラトニン
脳の松果体で作られるメラトニンは、睡眠ホルモンとも呼ばれています。日本では薬とされているため、一般の人は購入できませんが、アメリカなどではサプリメントとして売っています。現地時間の午後8~9時ころに、1~3mg飲むと、体内時計の調整が早まり、時差ボケの症状を和らげてくれます。

■ビタミンB12
体内時計を調整する作用が最も強いものは、強い光ですが、ビタミンB12は、光の作用を助ける働きがあります。また、ビタミンB12が直接体内時計に作用したり、睡眠を促したりすると考える研究者もいます。実際にはメチルコバラミンを、1日に1.5~3.0mg、3回に分けて内服します。

■バイアグラ
まだ実験の段階ですが、体重1キロあたり10ミリグラムのバイアグラを注射したハムスターは、注射しなかったハムスターに比べて、半分の日数で時差ボケから回復しました。これは バイアグラ が、体内時計を調節する神経に作用して、時差ボケ解消を早めたためと考えられます。

海外旅行が決まったら、日本にいるうちから時差ボケ対策を始めましょう。そうすればきっと、眠気や不眠に邪魔されず、充実した外国生活を楽しめるはずです。
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