糖尿病/糖尿病対策の生活・運動療法

ナトリウムと食塩と糖尿病の科学、いざ減塩へ!(2ページ目)

2015年4月から厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」が改訂され、塩分摂取量の目標値が男女ともに引き下げられます。自分が日常的にどのくらい塩分を取っているのか分からないのに、いきなり1g/日食塩を減らせと言われても、とまどうばかりです。

執筆者:河合 勝幸

減塩にチャレンジ

4月からの塩分摂取量の目標値は、18歳以上の男性で従来の9g未満から8g未満へ、同じく女性で7.5g未満から7g未満へ変更されます。2013年の国民健康・栄養調査結果では男性の摂取量は11.1g、女性は9.4gと現在の基準すら上回っていました。現実とのギャップは広がるばかりですが、厚労省は基準を厳しくして減塩意識を高め、生活習慣病を抑えたいのでしょう。

ところで、世界で一番むきになって減塩に取り組んでいるのは肥満大国の米国です。米国人は努力が実って成人一人あたりナトリウム3,466mg/日(食塩換算8.8g)まで下げましたが、2005年より19~50歳の正常血圧の成人ではナトリウム摂取の上限を2,300mg(食塩5.8g)未満、個人の努力目標を1,500mg(食塩3.8g)を超えないようにするよう求められています。
更に追い打ちをかけて、2010年より51歳以上の成人と、年齢に関係なくアフリカ系アメリカ人、高血圧症糖尿病慢性腎臓病のある人達にはナトリウム1,500mg/日(食塩3.8g/日)が勧告されています。これは一日あたり小スプーン2/3の食塩量ですから、どうやら瀕(ひん)死の病人扱いです。糖尿病患者は食塩感受性のあるグループと見なされているのです。例えば食塩摂取量を5g/日から15g/日に増やせば血圧も上がり、逆に15g/日から5g/日減らせば血圧も下がる人たちです。人口の約4割がこれに該当します。
それでいてカリウムは4,700mg/日摂取と、50歳以下の成人並に勧められています。これは今の米国人でも手が届かない数値です。

EU(2004)でも同様に成人の食塩摂取は5~6g以下、FAO(2003)はナトリウム<2,000mg/日以下、つまり食塩換算では<5g、WHO(2003)は努力して塩を1/3減らそう!出来るなら食塩<5gということで、ナトリウムの上限を<2,000mgにと呼びかけています。日本糖尿病学会は糖尿病と高血圧合併患者の食塩摂取量は<6gを推奨していたので、今回の改訂を受けて変更があるでしょう。

医師と役人がつくるこんな数値ばかり見ていると、1998年にランセット誌にM.H,アルダーマンが発表した論文を思い出します。米国の国民健康栄養調査で、意外にも食塩摂取の最も少ないグループが死亡率が高かったのです。米国で最も多く食塩を取ったグループ(男性11.5g/日、女性7.9g/日)が最も死亡の危険が低かったのです。このグループの食塩摂取量は日本の現状と同じではないですか!先進国で最も食塩摂取量の多い日本人が世界最長寿を享受しているジャパニーズパラドックスです。食塩制限によってレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系が異常に亢進して逆に血圧が上昇する人がいるのですから、そろそろ反省期かもしれません。専門家は知っていると思うのですけど……。

減塩のスタイルは各人の好みで

減塩の話題でテーブルから食卓塩のシェーカーを取り去れとか、プロのように「だし」を使うような調理テクニックが注目を集めるでしょうが、へそ曲がりのわが家では食卓塩は個人の自由です。その替り、調理中の塩分は極めて少量で加工食品も少なく、家人は大変ですが料理の殆んどが手作りです。よって、家族全員が正常血圧……。

米国のボーシャン(G.K.Beauchamp)らが1980年代に同じような実験をして話題になりました。調理で使う塩を50%減少させて、逆に食卓塩を自由にさせたところ、食卓塩の添加量は増えましたが50%減の2割を補ったにすぎず、トータルとしての食塩使用量は40%減少したというものです。

この実験に参加した人はご苦労にも病院内で食事をし、塩分摂取量は冒頭で紹介した尿中ナトリウム排泄量で測定されました。つまり、正確に計量されたのです。塩は舌に当たるとその感覚が続くので、表面だけにあれば十分で、やせ我慢せずにおいしく食べられます。ポテトチップスは独特の塩の感触が求められますが、フレンチフライド・ポテトは強い塩味は不必要です。塩は味覚が鋭くないと摂り過ぎてしまいます。
また、塩分摂取量は摂取カロリーに比例して増えますから、過体重で高血圧の人は、まずカロリー制限に取り組むのが第一です。

塩味(ナトリウム)を好むのは動物生来のものですが、その味のレベルは後天的なもの、習慣的なものです。個人差はありますが、塩分をカットして2~3週間後には元の味が塩辛く感じられます。しかし、元のレベルに戻るのはアッと言う間ですから、ご注意!
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