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「大人っぽい子」に潜む心理的リスク・幼児決断と自分らしさ

【公認心理師が解説】「大人っぽい子」は幼い頃から手がかからず、親にとってはしっかり者で頼もしく見えるものですが、本人は心の成熟のプロセスにおけるとても大切なことを十分に経験できずに成長している可能性があります。「大人っぽい子」の心に潜んでいる心理的リスクについて解説します。

大美賀 直子

執筆者:大美賀 直子

公認心理師・産業カウンセラー /ストレス ガイド

「大人っぽい」のはよいことか? 欲求を素直に表現する「わがまま」も大切

大人っぽい子供・大人びた子供

大人っぽい子は、しっかり者でよいと思われがち。しかし、「子どもっぽくしてはいけない」という思いを抱えていることも……

気に入った物があれば、それを使っていつまでも夢中で遊び、取り上げると泣きじゃくる。大好きなことにはのめり込む一方で、好きでないことはなかなかやろうとしない。

こうした子どもの行動に振り回されると、大人たちはほとほと疲れてしまいますよね。「うちの子は、自由すぎるんじゃないかな?」「わがままなのかしら?」などと考えこんでしまうこともあるかもしれません。

一方、たとえば外食に行っても食べたいものを言わず、他の人の希望をいつも優先している子もいます。本当は「遊びに連れていってほしい」などの思いがあるのに、そうした希望を伝えることなく、いつも静かに過ごしている子もいます。

このような「大人っぽい子」は、「きょうだい思いの優しい子」「聞きわけのいいしっかり者」などとほめられ、頼りにされることが多いかもしれません。すばらしいことではあるのですが、周囲に気を遣いすぎるあまりに、自分の本音に気づかないまま成長している可能性があるかもしれません。

こうした大人っぽい子の心には、幼い頃からあるメッセージが刷り込まれていることがあります。それは、「子どもであるな」という「禁止令」です。
 

大人っぽい子の潜在意識にある「子どもっぽくしてはいけない」というメッセージ

「禁止令」とは、心の深層に潜んでいる「○○してはいけない!」と思考や行動を禁止するメッセージです。幼い頃から素直な欲求を表現できない環境で生活するなかで、無意識のうちに心に沁みついてしまった「厳しすぎる人生の指針」といえるものです。

たとえば、本当は甘えたいのに、親はきょうだいの世話で忙しいから、甘えられない。本当はほしいものがあるのに、それを言える雰囲気ではないからがまんしている。こうしてがまんをしつづけていると「聞き分けのいい子ね」などとほめてもらえるので、ますます自分の本音を出さないようになる。この繰り返しのなかで、いつしか「自分は他の子たちのように、わがままを言ってはいけない」と思い込み、感情を表現することを最初からあきらめてしまうことがあります。

「○○してはいけない」といった禁止令などの影響を受けて、幼い子が「自分はこうしていこう」という生き方の指針を決めることを「幼児決断」といいます。この幼児決断は、本人の潜在意識のなかに刷り込まれているため、知らず知らずのうちに本人の価値観、思考の癖として心に根付き、しばしば「生きづらい思い」として残りつづけてしまいます。
 

「幼児決断」は大人になっても影響を及ぼし、生きづらさを生むこともある

この「幼児決断」は、思春期や青年期、そして大人になってからの生き方にも大きな影響を与えていきます。

たとえば、進路選び、就職先を決める際などに、自分の好きなことや本当にやりたいことがよく分からず、「なんとなく周りの大人が喜んでくれそうな進路」「『あなたに向いている』と言われたから決めた職業」などを選んだりすることがあります。

そうした人は、幼い頃から「自分らしさ」を見失っていることがあり、そのために何をしても心から楽しめない、満たされない気持ちが心の中に張り付いていることがあります。大人になってから自分の本当の欲求に気づき、自分らしい生き方を選びなおしていくことも、もちろんできます。ですが、できれば幼い頃から自分の素直な気持ちを表現し、多少自分本意ではあっても、できる範囲で自分のやりたいことを楽しむ体験を十分に持てた方が、より楽に自分らしい人生を歩んでいくことができるようになるのではないかと思います。

「もう少し大人っぽくならなくては」「いつまでも子どもっぽいままではいられない」という思いは、年齢とともに自然に育っていきます。家庭の状況や生活する環境によって育ち方は人それぞれですし、人生への思いも人それぞれでしょう。ですが、どの子にも、子どもらしい自分本位な欲求や思いきり甘えたい気持ちはあります。その気持ちをしっかり引き出しながら「素直でいていいんだよ」と温かく伝えてあげることで、楽に生きられることもあるのではないでしょうか。

限られた時間のなかだけでもいいのです。ぜひ、子どもの素直な気持ちを引き出しながら、子どもが自分らしく生きられるように導いていただけたらと思います。
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