昔からの健康の秘訣「腹八分目」
平均寿命だけでなく、健康寿命をのばすことが重要です。
さらに2009年度の国民医療費は36兆67億円となり、1人あたりの国民医療費は年間で28万円で、毎年増加しています。これからの日本社会の先行きを考えると、できるだけ自分で健康を維持していくことを心がけたいものです。
江戸時代の儒学や本草学の学者であった貝原益軒がまとめた『養生訓』には、漢方医学書や養生書から日常生活に役だつ記述や、また自分自身の体験等をもとに、健やかに生きるための知恵が示されています。その中の飲食の章には、「腹八分目」や「食は控えめでちょうどよい」「ものたりないくらいがよい」「腹のなかを戦場とするな」といった、食べ過ぎを諌める言葉がいくつかでてきます。
約300年も前にかかれた『養生訓』や、先人の言い伝えの中には、今では間違いであると考えられるものもありますが、科学的な裏付けもされるようになったものもあります。
「腹八分目」で寿命が延びる?
腹八分目、つまり控えめに食べるエネルギー制限食で寿命がのびる研究は、80年ほど前から行われていました。原生動物やミジンコ、サクラグモ、ラットなどの動物種において、通常食よりもエネルギー制限食の方が、平均寿命が1.4倍から1.9倍延びたという結果が出たのです。その後も動物レベルの研究は行われ、エネルギー制限食を摂ることで寿命が延びるだけでなく、様々な生活習慣病や加齢による症状の予防改善に役立つのではないかというような様々な報告があります。特に近年では、長寿や老化をコントロールする遺伝子と関係するのではないかと考えられています。
金沢医科大学のサイトでは次のように説明しています。
ヒトのサーチュインは7種類(SIRT1~SIRT7)あります。最近の研究成果から、カロリー制限によって活性化されるサーチュイン遺伝子は、長寿に関連する細胞修復、エネルギー生産、アポトーシス(プログラム細胞死)に好影響を与えるのみならず、インスリン抵抗性も改善することが明らかにされてきました。
「腹八分目」はメタボや脳機能にも影響
同大学では、サーチュイン遺伝子を活性化させる新たな薬物が登場すれば、インスリン抵抗性が関連するメタボリックシンドロームや糖尿病の克服に繋がる他、癌抑制および認知機能の維持など重要な役割を果たすのではないかと考えられ、また極最近、Srit1遺伝子を活性化することで慢性腎臓病を改善する仕組みを、金沢医科大学と、滋賀医科大学がマウス実験で解明されました。東京大学と米国ウィスコンシン大学では、摂取カロリーを抑えると、加齢に伴い聴覚が低下する「老人性難聴」になりにくくなり、それには長寿に関係するSirt3という遺伝子がかかわっていることをマウスの研究で解明したと発表されています。
また2011年12月にはイタリア聖心カトリック大学医学部の研究で、マウスでの実験で、エネルギー制限することが脳の機能を良好に保つためにも役立つという発表もありました。
こうした一連の研究をもとに、例えば赤ワインに含まれるレスベラトロールという成分はサーチュインを活性化させ、血管内皮細胞の動脈硬化を防ぐ機能を高めることなどが分かっています。このような長寿遺伝子や他の関連タンパク質を活性する成分を活用した新薬の開発などにも研究が進められています。