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アラン・デュカスに単独インタビュー(3ページ目)

『デュカスのナチュールレシピ』出版にあわせて来日したアラン・デュカス。フランス料理のこれからについてじっくりと聞いてみた。今は厨房で腕を振るうことはないがあくまで料理人として自然や素材と真摯に向き合い、フランス料理の発展に尽くす人材を育て上げる姿勢は一貫して変らない。デュカスの凄いところはぶれない哲学にある。

嶋 啓祐

執筆者:嶋 啓祐

フレンチガイド

「分かち合う」という言葉

デュカス氏が最も繰り返し述べた「分かち合う」という言葉。「私はアーティストではなく、職人である。料理人はどのように食材を尊重していくか、その料理を食べるお客さんにどう伝えるかをいつも考えている。絶えず生産者へのオマージュの精神は忘れない」と力強く話し、「生産者が苦労して大事に育てたものを料理人が大事に調理をすること。調理過程のすべてが大切だが、その前提にあるのが食材の風味を変えないことである」

料理は短時間の喜びであり、形に残らず消えてなくなる。だが、たくさんの愛情が込められた旬のものや地元の食材を使った料理をゆっくりと味わい、友達や家族と共に喜びを分かち合う。それが適った料理は時間と記憶の間で長い長い余韻をもたらすだろう。食べ手と作り手、両者が尊重し、分かち合うことで私たちの心はより豊かになれる。
アランデュカスのナチュールレシピ

自然、素材、料理を静かに熱く語る

繰り返すが、デュカス氏の料理は何を食べているかがしっかりわかる料理だ。複雑に見える皿の上の食材たちが持ち味を損ねることなく一つひとつが舌で存在を示す。これは彼の幼いころの味覚が前提にあり、料理は複雑さを演出しながら食材の風味を維持し、結合していく。

最後にアラン・デュカス氏からレシピを作るときのアドバイスがあった。
「レシピはあくまで参考です。珍しい輸入品を買うよりもより新鮮な食材を使うことです。身近な食材を代用して自分らしい工夫を加えてみてください。旬のもの、地元のもので愛情を込めてつくること、それが一番重要なポイントです。そして、家族や友人とゆっくり味わうこと。そうすることで、喜びや楽しみを分かち合うことができるでしょう」
アランデュカスのナチュールレシピ

パリのアランデュカスにて、ラングスティーヌのキャビア乗せ、そしてスープ

デュカス氏の食材、料理に込められた思いがたっぷりと詰まったレシピ集。栄養と美食の第一人者、ポール・ネラ女史の栄養面や食べ合わせのアドバイスが記載されているのもとても参考になる。このレシピ集を通して食生活を見直し、食べる喜びの再発見をしてみてはいかがだろうか。

世界に何店舗もレストランを経営するビジネスマンとしての顔が目立つデュカス氏ではあるが、原点は素材、そして地中海だ。そして私も影響を受けている彼の言葉「記憶-どこに向かっているかを知るためにも、どこから来たのかを忘れてはいけない」。料理人は職人であると同時に突き抜けると哲学者になるのかもしれない。

『アラン・デュカスのナチュールレシピ』
価格/2940円 世界文化社 刊

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