避難時、非常時に二の次になりがちなオーラルケア
歯磨きを始めとするオーラルケアは、肺炎などの感染病防止のためにも重要です
非常食や水、ティッシュペーパー、生理用品、マスク、懐中電灯、防寒具など、生きる上で欠かせない生理的欲求を満たすものや、安全・衛生に関わるグッズが揃えられていると思います。
しかし、案外忘れがちなのが、歯ブラシなどのオーラルケア用品です。
過去の災害時の報道を見ますと、災害発生から何も持ち出せずに避難され数日を過ごした方たちの欲しいものの一つに「歯ブラシ」が挙げられていたことがわかりました。避難所では歯ブラシがないだけでなく、水も十分になく、歯・口・入れ歯などの清掃がおろそかになりがちです。
厚生労働省「生活支援ニュース4月5日版」では、「感染症をふせぐために」として、口腔ケアについても紹介しています。
避難所では、すぐに食べられるようなパンやお握り、カップラーメンなどの食事がしばらく続くことが考えられるため、栄養も偏りやすく、また精神的なストレスなども重なり、抵抗力も落ちてしまいます。
口の中を不潔にしていると細菌が増え、虫歯、歯周病、口臭などが生じやすくなり、また感染症にもかかりやすくなります。特に高齢者は、免疫力が落ちた時に口腔や咽頭部の菌を気管や肺へ誤嚥することで、肺炎を引きおこしやすくなるので、とりわけ注意が必要なのです。過去の震災でも、避難生活が長引くと、高齢者の肺炎が増加する傾向が見られます。
歯磨きなどのオーラルケアを怠ると肺炎リスクも上がる
「大規模災害時の口腔ケアに関する報告集」(平成21年12月健康安全・危機管理対策総合研究推進事業)を見ますと、阪神・淡路大震災では、震災関連死922人の81.3%が65 歳以上の高齢者であり、死因の最多は肺炎だったそうです。その発症に関しては、インフルエンザの流行、避難所の劣悪な食住環境、脱水、ストレスによる免疫低下などいくつかの要因がありますが、震災時の高齢者の肺炎は6~8割程度が誤嚥性肺炎ではないかと推察されています。
また誤嚥性肺炎は脳血管障害の患者に多く見られますが、阪神・淡路大震災時には常備薬を持ち出せない、また病院が機能しない状況で、薬が確保できない、食事や運動療法が継続できないという状況から症状悪化が問題となったこと、肺炎と脳血管障害が震災の影響によって増加した考えられています。
地震や津波から生き延びた命にもかかわらず、その後の生活でなくなられることになるのは、あまりにも無念なことです。
※震災関連死
直接死ではない、震災を原因とする避難生活での症状悪化や、車中でのエコノミー症候群による突然死など、震災後の死亡。
非常時の歯磨き方法・オーラルケアのポイント
要介護高齢者の肺炎対策として、「口腔ケア」を行なうことで誤嚥予防に役立つという実績もあり、指定避難所などの公共施設に口腔ケア用品を備蓄することも提言されています。行政での取り組みも大切ですが、私たち一人ひとりの準備や心がけも必要です。防災セットなどに、歯磨きセットを入れておき、避難時にもケアできるのが理想ですが、緊急時には持ち出せないこともあります。そんな時のために覚えておきたい口内環境のケア方法をご紹介しましょう。
■少量の水かお茶を2回に分けて口をすすぐ
歯磨きはできなくても、水やお茶など、少量でもよいので、唇を閉じてぶくぶくと洗口しましょう。口一杯に水を含んで1回洗うよりも、少量でも2回に分けて洗う方が効果的です。
■ガーゼやティッシュで口内を拭く
歯ブラシセットや水がない場合は、できるだけ清潔なガーゼやティッシュペーパーなどで、歯や義歯、歯茎などもふき、食べ滓を残さないようにしましょう。
■食物繊維の多いリンゴなどを後に食べる
もし食事にパンやごはんなどとリンゴが出た場合は、パンやごはんなどを先に食べて、リンゴは最後に。リンゴの食物繊維が食べ滓を落としてくれます。
■キシリトールガムなどを常備しておく
水がない状況では、キシリトール配合のシュガーレスガムを噛むのが有効。水分が少なく保存も効くので、防災バッグに入れておくとよいでしょう。ただし、長期保存する場合は、入れた年月日をメモし、時折チェックしましょう。(特定保健用食品指定のガムは賞味期限が表示されています)
■なるべく唾液をよく出す
唾液をよく出すことも、口腔内を清潔にするために役立ちます。高齢者や、緊張感が続く状態では唾液がでにくくなりますから、シュガーレスガムや酢昆布なども、噛むことで唾液の分泌を促しますし、リラックスにもつながります。
また酸っぱい梅干しなども唾液の分泌を促します。ただし、塩分が多いので、食べ過ぎには気をつけてください。
■水が少ない場合は歯磨き粉なしでブラッシングを
水がない時に歯磨きを使うと、口に残ってしまったときにかえって乾燥しますから、歯ブラシだけのブラッシングにした方がよいでしょう。
近年は、防災用に適した液体歯磨きなども販売されています。また嵩張らない歯間ブラシなどを非常用防災バックにいれておくのもよいでしょう。
その他、甘いものを食べたり飲んだりする時には、時間を決めてとるなど、だらだだらと食べていることがないように、リズムを作ることも大切です。また唾液の分泌を促すためには、顔面体操や、顔やあごなどのマッサージをいる、梅干しを連想したり、口をもぐもぐするだけでも唾液が出やすくなります。
詳しくは、下記のサイトでも紹介されていますので、ぜひご覧ください。
■参考
- 災害時の口腔ケア・歯科治療 平易な「Q&A」(日本口腔ケア学会)
- はじめよう口腔ケア(8020推進財団)
- "生活支援"ニュース(厚生労働省)
- 大災害時の口腔ケアに関する報告集「大規模災害時における歯科保健医療の健康危機管理体制の構築に関する研究」研究班(東京医科歯科大学)