きれいな空気は「基本的人権」
コロナ禍の夏。室温が上がるのを嫌って換気せず、涼しいけれど汚れた空気の屋内で、リモートワークに勤しんでいる人は少なくないのではないだろうか。それ、じつは大きな目で見ると損をしていることになり、「健康維持のための基本的条件が守られていない危うい状況です」と警鐘を鳴らすのは、東京大学名誉教授でIBEC(建築環境・省エネルギー機構)理事長の村上周三氏だ。
「きれいな空気を呼吸できることは基本的人権です。なぜかというとペットボトルの水はあるけど、ペットボトル入りの空気はない。昔はみんな、水道の蛇口から出る水を飲んでいましたが、最近は飲まない。水の質にこだわって、ペットボトル入りのミネラルウォーターを買っていますよね。要するに、水の場合はそういう逃げ場がある。だけど空気にはない。呼吸は常時続いていますから、汚れた空気は避けようがないんです。きれいな空気を吸う権利は、人間として当然持っている基本的人権です。清浄な大気を要求することは基本的人権の要求と言っていいと思います。その意味で大気を汚すことは罪が深いです」
なるほど。私たちの体は24時間休みなく呼吸を繰り返し、1日あたり約2万回で、およそ15kgもの「空気」を取り込んでいる※1。目に見える分、食べ物や飲み物のほうが沢山取り込んでいるような気になるが、実際は日々2kg程度。空気の方が何倍も多い。体のことを気遣うなら、我々は水同様、空気にももっとこだわるべきなのだ。
「たとえばペットボトルの水は500mlで100円以上しますよね。ですが石油は1000ml150円ぐらい。山などで汲んで来た水がリッター200円で、サウジアラビアなどの地下から掘り出してタンカーで運んで、精製したガソリンがリッター150円。それくらい我々は水を大事にしています。それに対して空気にはあまりにも無頓着。基本的な人権として、きれいな空気について、もっと大切に考えてもらいたいですね」
※1 平成24年度 喀痰吸引等指導者講習事業「喀痰吸引等指導者マニュアル」より算出
空気の「きれい」「汚い」はどう違う?
では、空気がきれいか汚いかはどう判断したらよいのだろう。においがするとか、吸い込むのが苦しいような空気ならすぐに判断できるが、普通は空気がきれいか汚いかはなかなかわからない。この面からも、清浄大気の重要性が理解できる。
「空気を汚染する物質には硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)、近年話題のPM2.5など沢山ありますが、屋内の空気の汚れについては二酸化炭素濃度で代表させようということになっています。二酸化炭素は“衛生の番兵”とも呼ばれており、これの濃度が1000ppmを超えている時には、ほかの汚染物質も増えているに違いないという考え方です。
労働衛生上の許容濃度(1日8時間労働)では、働く現場の二酸化炭素濃度は5000ppm以下と決められています。これはきれいな空気というのではなく、労働環境でぎりぎり許容できる範囲ということです」※2
二酸化炭素濃度5000ppmというのは、閉め切った自動車に大勢の人が乗車しているときなどに発生するレベルだ。想像すると息苦しくなってくる。
「二酸化炭素そのものは、これくらいの濃度なら害はありません。5000ppmは0.5%のことですが、人の呼気中の二酸化炭素濃度は3.8%くらいです※3。今皆さんはマスク生活で、一日中自分が吐いた高いCO2の濃度の空気を再吸引していますが大丈夫でしょう。二酸化炭素濃度の上昇が、人間の呼吸だけによるものであれば、少々高くてもすぐに健康障害は発生するわけではありません」
とはいえ通常の生活では、二酸化炭素濃度が上がると、においも含めほかの汚染物質の濃度も上昇する傾向にある。ではどうすればよいのだろうか――。屋内の空気をきれいに保つ上で、最も重要なのは換気だという。
「コロナ禍で換気の重要性が叫ばれるようになりましたね。換気とは、内の空気を外の空気と入れ替えること。外の空気を新鮮外気と言いますが、外気がきれいだから入れ替える意味があります。汚かったら意味ないですよね。だから大気を汚染することは罪が重いと言ったのです。
昔、公害がひどかった時代に光化学スモッグが発生したとき、小学校で『窓を閉めて、換気しないで』と言われたこともありました。しかし、これは問題です。人間は、特に子どもは、代謝量がものすごく多いので、閉め切ったりしたら二酸化炭素濃度の上昇を含め空気汚染が進行します。それに、閉め切ったとしても建物には必ず隙間があって外気は必ず入って来るのです。だから、外の空気に問題があるからといって、締め切ることで問題解決にはなりません。ですから屋外大気は清浄でなければならないのです。
一般論として、いかなる場合でも、外気よりは屋内の空気のほうが汚いと考えるべきです。人間が生活するということは、汚染物質を出すということですから」
※2 建築物環境衛生管理基準の設定根拠の検証について(東賢一)
※3 現代保健体育学大系;13 人体生理学(猪飼道夫編)
空気がきれいだと作業効率も上がる
なるほど、換気の悪い、よどんだ空気の中では、勉強や仕事など知的作業の効率が下がることは、誰もが経験しているのではないだろうか。
「その通りです。私も以前実験したことがあります。
やる気あふれる社会人である、20~40代の一級建築士の資格受験者を、換気量が十分な部屋と不十分な部屋に分けて、論理系、暗記系のテストを受けてもらいました。受講生には、室内の環境条件を調整していることを伏せて、ブラインドテストで行ったのですが、換気量大でテストを受けた受講生のほうがすべての項目において、5~9%もよい成績を取っていました」
面倒くさいとか、わざわざ冷やした空気やわざわざ温めた空気を換気で外に逃がすのはもったいない等の理由で換気を怠ると、空気の質が悪くなり、結果、仕事の質や作業効率も下がってしまう。
「換気が悪いと眠くなりますよね。それは、生物にとって危険なサインだと思います。本来、生命を守るには、空気が悪いと感じたら逃げ出さなくてはいけない。寝てしまうのは危険です。つまり、それくらい換気に気を付けるべきだと言いたい」※4
ちなみに理想的な換気法とは。
「空気汚染による健康被害と冷暖房費用を合算して考えると、換気回数は1時間あたり0.5回、つまり部屋の空気を1時間に半分入れ替えるのが妥当な目安です。ただしこれは、空気を汚染する特別な発生源のない場合です。汚染源が不明の時は、多めの換気が安全です」
狭い部屋に人間が大勢いるような場合や空気がよどんでいると感じた際には、せっせと換気を心がけるのがよさそうだ。
※4 東京消防庁・予防事務審査基準より
ウェルネス向上にもっと意識を
きれいな空気を吸う権利を守るために、村上氏のお勧めは、二酸化炭素濃度の測定器をオフィスや自宅に置くことだ。測定器は旅行用の目覚まし時計ほどの大きさで、二酸化炭素濃度のほか温度と湿度も測れるのが一般的で、価格は3000円台からある。警報アラーム付きのものなどは熱中症予防用に持ち歩いてもいいかもしれない。
「昔は、企業経営において人件費は削減すべき経費でした。でも今は、人材こそが会社の資産という考え方に変わりつつあり、そのためには社員が高いレベルの健康状態を維持できる執務環境の確保が大事な経営目標という考え方が普及しつつあります。このような変化の背景として国連が主導するSDGs(持続可能な開発目標)のコンセプトを指摘することができます。ですから社員のウェルネスの向上のためには、積極的に換気に投資することは極めて有益な投資で、投資した以上のリターンが見込めるはずです。繰り返しますが、清浄空気の確保は基本的人権です。
そういう意味では、新型コロナウイルス感染症の流行によって、きれいな空気や換気に社会の関心が向くようになったのはよかったと思います。きれいな空気の確保は、公衆衛生の基盤です」
オフィスに限らず、外出自粛時の自宅でも、きれいな空気を取り入れて、自分の健康に投資してはどうだろう。
(取材・文/木原洋美 撮影/日下部真紀)
QUALITY AIR FOR LIFE
24時間365日、世界中のあらゆる生活シーンで空気はあなたと共にあります。パナソニックが目指しているのは、空調技術と換気技術の融合により新鮮な空質を保ち、心と身体の健康につながる快適な生活、"Quality Air for Life"を世界中の人に享受してもらうことです。これまで培ってきた総合的な技術力で健やかな暮らしをお届けしていきます。
空気をかえるナノサイズの技術
- ● 電気を帯びた水、ナノサイズの「帯電微粒子水」とは
- 「帯電微粒子水生成技術」は、空気中の目に見えない水分を集めて高電圧を加え、ナノサイズの水粒子を生み出す技術です。この水粒子は電気を帯びているため「帯電微粒子水」と呼ばれます。
- ● 様々な物質に作用しやすいOHラジカル(高反応成分)
- OHラジカルは空気中の菌※1・アレルゲン※2に含まれる水素を抜きとるという性質をもっています。このOHラジカルの数が多ければ多いほど除菌効果※2が期待できます。
-
「帯電微粒子水」が
菌に届き… -
「OHラジカル」が
菌の水素を抜き取り… -
菌の水素を水に変形、
菌を抑制します
- ※1 約6畳の試験室内での4時間後の効果を検証済み(実使用空間での計測結果ではありません。)
【試験機関】(一財)北里環境科学センタ−
【試験方法】約6畳の試験室内で菌を浮遊させ空気中の菌数を測定
【除菌の方法】「帯電微粒子水」発生装置を運転 【対象】浮遊した1種類の菌
【試験結果】4時間で99%以上抑制(北生発24_0301_1号) - ※2 約6畳の試験室内での8時間後(花粉)、24時間後(ダニのフン・死がい)の効果を検証済み
(実使用空間での計測結果ではありません。)
【試験機関】パナソニック(株)プロダクト解析センター
【試験方法】約6畳の試験室内で布に付着させたアレルゲンをELISA法で測定
【抑制の方法】 「帯電微粒子水」発生装置を運転 【対象】付着したアレルゲン
【試験結果】〈花粉〉8時間で88%以上抑制(BAA33-130402-F01)〈ダニのフン・死がい〉24時間で60%以上抑制(BAA33-130304-F04)。 実際の効果は、季節・周囲環境(温度・湿度)、使用時間、個人によって異なります。「帯電微粒子水」・「高濃度帯電微粒子水」はウイルス等を抑制する機能はありますが、感染予防を保証するものではありません。
空気のこと、
みなさんはどう思いましたか?