「本当に災害に強い家」とは? 実は省エネ性が重要なわけ

昨年は台風や集中豪雨などの災害が多く発生し、想像以上の被害とともに、電気や水道が寸断されるなど、「二次災害」への関心も高まっています。大切な家族の未来のため、本当に災害に強い家とはどのような家なのか、住まいの安全を考える建築士の井上恵子さんに伺いました。

提供:国土交通省

お話をうかがった方

井上 恵子さん

「住まいの性能・安全」ガイド:井上 恵子さん

安心・安全な住まいを見極め、女性視点でサポートする一級建築士。マンション設計に携わった経験を数多く持つ一級建築士が、住まいの性能を解説。性能評価申請に関わったマンションは20棟以上。設計事務所設立後は子育ての経験を生かし保育園の設計なども行う。その他に戸建て・マンション購入セミナー講師、新聞へのコラム連載など

災害には一次災害と二次災害がある

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災害には直接的な被害を受ける一時災害のほかに、二次災害があります。その違いを、具体的な事例とともに井上さんに解説して頂きました。

井上さん(以下省略)「一次災害とは、地震であれば建物の倒壊や地すべり、台風や豪雨であれば家屋の被害や浸水など、直接的な被害をもたらす災害のことをいいます。それに対して、二次災害は一次災害をきっかけに起こるものをさします」

「2011年の東日本大震災では、上水道(飲用可能な水)の断水や、広域で発生した停電など、ライフラインが止まり大きな問題になりました。また、昨年の台風では、大雨により下水の処理能力を超えてしまい、街中に汚れた水があふれてしまったことも記憶に新しいと思います」

そして、二次災害にはさまざまなリスクがあると井上さん。

「一次災害で大きな被害がなかったとしても、その後の断水や停電が続く二次災害で、普段の生活ができなくなり、大きなストレスを感じることになります。また、阪神淡路大震災の場合などは、ガスの元栓を閉めずに避難したり、停電復旧時に、破損や点灯した電化製品、断線した配線がショートすることが原因で、火災による多くの被害が出ました」

つまり、本当に災害に強い家を目指すなら、一次災害と二次災害、両方への備えが大切なのです。

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災害への備えで大切なこと

では、どのような備えが大切になるのでしょうか。井上さんにいくつかの事例を紹介して頂きました。

●防災グッズや保存食などの備蓄品を準備しておくこと
「災害の発生に備えて、いつでも取り出せるように、管理しておくことが大切です」

●住む場所にどんな危険があるか知っておくこと
「国土交通省の『重ねるハザードマップ』で、その土地の成り立ちから地盤の強さの目安、河川の氾濫の危険度合がわかります」

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国土交通省「重ねるハザードマップ」

●避難場所を確認し選択肢を考えておくこと
「一度、家族で避難所までの経路を歩いてみてはどうでしょうか。避難所に行く途中で、水難の被害にあわれた方もいます。避難経路の危険性を把握しておくことで、豪雨の場合は別の避難場所にするなど、対策を立てることができます」

●家自体の省エネ性能を上げておくこと
「一次災害に備え耐震性などを事前に高めておくことはとても重要です。費用面でみても、災害で壊れてから家を直すより、事前に耐震補強をしておくほうが、かかるコストが軽減されます。また、停電や断水が発生した場合に、普段の生活を維持できる『省エネ性能の高い家』にすることも同じように重要です。省エネ性能の高い家、つまり省エネ住宅であれば、限りあるエネルギーを効率的に使えるのはもちろん、自ら消費するエネルギーを創ることも可能です」

省エネ住宅で災害に備える!

ではあらためて、災害に備えるという観点で省エネ住宅にはどのような特徴があるのでしょうか。

●高機能設備の導入でエネルギーを創る
「例えば、エネファーム(家庭用蓄熱電池)は、タンクに貯めたお湯や水を断水時に生活用水として使えます。また、エネファームが発電中に停電となれば、非常用電源としても利用でき、さらにはタンク内のお湯をお風呂やキッチンで使うことができます。そして、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)※1住宅にすると、災害に強い、高断熱・省エネ・創エネの3つが揃います。例えば、太陽光発電システムなどの創エネ装置を設置していれば、停電時にも電気を使用できますし、蓄電池を備えれば、夜間の電力としても使えます。このように、災害時にライフラインが寸断されたときも電力を使用でき、生活を持続できる安心感が大きいです」

●少ないエネルギーでも快適な室内にする
「室内の断熱性が高い住宅であれば、災害時に万が一停電した場合でも、通常の住宅に比べて、少ないエネルギーで比較的快適な室温を保つことができます」

●家計に余力を生む
「省エネ住宅の特徴のひとつが光熱費などのランニングコストが抑えられること。上手く抑えた分を貯蓄にまわせれば、万が一の時に対処できる経済的な余裕にもなります」

●家族の健康を守る
「震災やその後の避難生活は、身体的にも大きな負荷になります。快適な居住環境を実現する省エネ住宅は、アレルギーの原因となるカビの発生やヒートショックを予防するなど、健康な身体を維持することにもつながります。健康であることは、災害時など、いざ体力が必要になったときこそ重要です。災害からの回復力(レジリエンス)を高めるには、健康や災害に関するリスクを知り、家も身体も備えておくことです」

●地球温暖化対策にもなる
「地球温暖化が災害の原因である可能性※2も研究されている昨今。エネルギー消費を抑える省エネ住宅が普及することは、地球温暖化を防ぎ、異常気象による災害を減らす、本質的な対策になる可能性があります。家庭で利用されるエネルギー消費量は15%以上を占めています。この消費エネルギーを2030年までに40%削減する『脱炭素化』が、2015年のパリ協定をきっかけに決まり、もはや待ったなしの状況なのです」

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※出典:温室効果ガスインベントリオフィス。間接排出量とは、電気事業者の発電に伴う排出量を電力消費量に応じて最終需要部門に配分した後の値

法改正などで国も後押し!本当に災害に強い家に補助金も

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多くのメリットがある省エネ住宅を、国も様々な形で後押ししています。

「建築物省エネ法が2019年5月に改正され、マイホーム購入に関わる部分では、建築士から建築主に対する省エネ性能の説明義務制度が2021年4月から始まる予定です。具体的には提案中の住宅が省エネ基準に適合するかどうか、適合しない場合は省エネ性能の確保にどのような措置が必要か、などの説明が必要※3となります」

「省エネ住宅の例としてZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)※1がありますが、また、再生可能エネルギーの自家消費拡大を目指したZEH+、さらに蓄電池や太陽光発電など、停電時のレジリエンスを強化した『ZEH+R』住宅があります」

「そして、このZEH+Rの条件を満たした住宅は、125万円/戸の補助金が申請できます(令和元年度の補助金制度の場合。応募方法は一般公募。二次公募までは予算額を超えた申請があった場合は、公募期間終了後、抽選にて申請受付者を決定。三次公募は先着順に受付)」

このように、さまざまな後押しもある今、環境・健康・家計の点で「本当に災害に強い家」として、省エネ住宅を検討してみてはいかがでしょうか。


※1 ZEH(ゼッチ)……ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略称。外皮の断熱性能等の大幅な向上などで室内の快適性と大幅な省エネルギー性を両立させ、再生可能エネルギーの導入により、年間の1次エネルギー消費量の収支がゼロとなることを目指した住宅
※2 環境省「おしえて! 地球温暖化」より
※3 分譲住宅・賃貸住宅の売主・仲介事業者等に対して購入者・賃借人への説明を義務づけるものではありません。