イギリスというと、「クイーンズ・イングリッシュを話すのですよね?」とよく言われます。「クイーンズ・イングリッシュ」が、アメリカ英語に対比するイギリス英語という程度の意味であれば、「はい、イギリスではイギリス英語を話します」と私は答えています。
でも、文字通りに「女王陛下の英語」を話すかどうかとなると、一部のやんごとない方たちを除いて、ほとんどの人は「クイーンズ・イングリッシュ」を話さない、と私は答えています。ちなみに、ある言語学者たちの研究によると、女王陛下でさえも、もはや以前のような「クイーンズ・イングリッシュ」をお話にならないと言われています。
では、イギリスではどういう英語が話されているかというと、階級を縦の軸に、地域を横の軸に、多種多様な英語が話されているため、これまた一言で説明することができません。今回は、数ある種類のイギリス英語の中から、伝統的に「標準」とされる Received Pronunciation という発音と、最近話者の数が急速に増えている、Estuary English に焦点を当ててみたいと思います。
P1. 伝統的な標準、容認発音 (Received Pronunciation : RP)
P2. ロンドンセレブの証、河口域英語 (Estuary English)
高学歴の香り漂う容認発音 (RP)
RP 話者の代表選手、ヒュー・グラントの話す英語が楽しめる『ブリジット・ジョーンズの日記 きれそうなわたしの 12 か月』 |
この発音が容認発音 (RP) として知られ、俗に言う「クイーンズ・イングリッシュ」のイメージに一番近い発音です。BBC 放送のアナウンサーを連想させるので、「BBC イングリッシュ」とも呼ばれます。アナウンサーを連想させるということは、一般的ではないと解釈できると思います。この発音は、イートン校などの、トップクラスのパブリックスクールや、オックスフォード大学、ケンブリッジ大学などでよく使われるといわれています。
さて、RP Speaker 1 のかたの発音に耳を傾けてみましょう。まず、お気づきになると思うのは、「早い」ということです。ペラペラシャキシャキ、テキストを目で追うのも慣れないと大変ですね。音声学的な位置づけはともかく、私の個人的な意見では、RP 話者のかたは、発音は正確なのですが、とにかく早口なのです。どういうわけか日本では、「クイーンズ・イングリッシュは綺麗で、聞きやすい」というイメージがあるようですが、私には、とても聞きやすいとは思えません。このスピードとリズムが私たち観光客には、第一の鬼門です。
それと、注意して聞いていただきたいのが、「grass」と「 rafters」の音です。カタカナ表記するなら、「グラス」と「ラフター」になるはずの音が、「グラース」、「ラーフタ」のように聞こえませんか?このなんとも言えない、「カ~ラ~ス~、なぜ鳴くの~」と歌っているような「アー」の音が、イギリスでは、高学歴を連想させるのです。