■シャイアはこうして作られた!
イギリスのカントリーサイドに見られるような緑豊かな牧草地に、美しい花々が咲き、村の中心の湖には、これまた英国田舎風の石橋、そして水車小屋がカラカラと音を立てて回る、のどかな村“シャイア”。そこに暮らすホビット族の人々は、様々な野菜や果物が実をつける畑を耕し、家々の煙突からは煙が立ち昇っている――。
この物語の鍵を握る小人族ホビットが暮らすシャイアの風景は、映画の中でもとりわけ美しく、印象的で、見ている者を魅了する…。そのシャイアが再現されたのは、ニュージーランド北島の私有地ファームであると前ページで書いたけれど、このシャイアをニュージーランドに作ること自体が、大変な苦労だったのだそうだ。
なにせ、物語原作のイメージする風景はイギリス(このことは、先にアップした『ロード・オブ・ザ・リング紀行』の記事冒頭でも触れているけれど)。でも、ロケ地ニュージーランドは、オーストラリア同様、人類が集中する北半球から遠く離れた南半球にあり、他からの様々なものの進入を拒んで、独自の進化を遂げた動植物を有する国。そんな、ニュージーランドならではの樹木や花々が、映画の中に登場してはマズイ…と、関係者必死の工作活動(?)が行われたのだそう。
まずは、海外などからもそれらしい植物を移入。イギリス・カントリーサイド風の花々を植え、村内の畑にもそれらしい野菜の苗を植えて育て、いかにもニュージーランド!と判ってしまいそうな木には、1枚ずつ丁寧にフェイクの葉を付けて加工。本当はなんでもない(何も実をつけない)木に、小さなリンゴを結びつけて、リンゴの木に見立てたりたりもしたのだとか。
さらに、それらの園芸工作がしっかり根付いたところで、実をつけた野菜などに毒性のある薬品を使って、野生動物が食べてダメになってしまわないようプロテクト。もし、畑や花壇を夜の間にメチャクチャにされてしまったら、今までのの努力が水の泡になってしまう…というわけで、あの風景の維持には相当な尽力を注いだのだという。しかも、海外から運び込まれた植物は、撮影と同時に廃棄処分に。そう、そのままにしておくと、ニュージーランド固有の動植物体系を壊してしまうから。
また、同時に建設(?)された、あのユニークな丸窓の家や水車小屋、石橋などの建物はすべて、ベニヤやスチロールを使って作られたセット。でも、まったく違和感なく、あの風景に溶け込んでしまっているところがスゴイ!
そして撮影が終わったファームには、今でもホビットの家のセット跡が残されたまま、元々そこで暮らし、草を食んでいた羊達の格好の遊び場(?)と化している…(笑)。
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