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「旅館再生」裏話

「旅館再生」の本で紹介される、成功事例の裏側では、そこに至るまでのドラマが隠されています。

井門 隆夫

執筆者:井門 隆夫

旅館ガイド

現代の「旅館再生」とは「金融再生」。

「旅館再生」桐山秀樹著
旅館再生の現場を担う人々の考え方や手法が描かれている。

「ホテル戦争」などの著書があるノンフィクションライターの桐山秀樹さんが旅館再生の現場をレポートした、「旅館再生 老舗復活にかける人々の物語」(角川Oneテーマ21、08年6月)が発刊されました。新書版ですので気軽に読める好著です。ぜひ一度お読みになってみてはいかがでしょう。
この本では、星野リゾートの取組みを中心として、旅館再生を担う人に焦点を当て紹介されています。どちらかというと再生の「表」の顔が描かれていますので、ここでは、少しだけ「裏」の話をさせていただくことにいたしましょう。

旅館業の自己資本比率
日本政策投資銀行「産業別データハンドブック」から作成。
「旅館再生」とひと言で片付けられることが多いのですが、昨今の再生を狭義に定義すれば「金融支援を伴う旅館業の事業再生」を指します。金融支援とは、旅館に融資をする金融機関が条件を設定したうえで利子を減免したり、極端な場合は、借金の一部を免除すること。前者を自力再生、後者を金融再生等と呼びます。
近年主流となっている金融再生には、借金の額と事業価値(将来生む収益)の額のバランスにより、その差が少なければ「私的整理(銀行団だけが借金を一部免除する)」、その差が大きすぎれば「法的整理(民事再生法等を選択して適用し、全ての債権者の借金を一部免除してもらう)」を活用します。私的整理の場合は、誰にも知られず内々に済まされますが、法的整理の場合は、新聞等でも公表されるので、「○○旅館が民事再生法を申請」等とニュースを見たこともおありかと思います。でも民事「再生」ですから、潰れるわけではなく、もちろん重大な経営責任が問われますが、むしろ借金が適正額になり再生されるというニュースなので、前向きにとらえたいのですが、前経営者の経営判断ミスを過度に批判がちに報道されてしまうのが哀しいところです。「人の失敗は蜜の味」なのでしょうか。でも、「失敗しない代わりに成功もしない」より、「失敗を糧に新たな成功に向かう」ほうが潔いと思うのですけれど。そういう日本にしていきたいですね。
そんな金融再生の背景には、旅館業というのは、「資本は小さいけれど、土地という担保を持つ家業が、金融機関から多額の借金をして旅館を建てている」という事情があります(上図)。しかし、近年、銀行の健全性を高めるため、銀行の自己資本比率を高めなさい(返済リスクの高い融資先の借金=不良債権を減らしなさい)という「国際的規制」が強化され、銀行が「借金が多い割に利益率の低い」旅館の(借金を一部免除する代わり、経営者交替などの手法を伴うことも含め)事業再生を図る必要が生じてきたのです。
つまり、現代の「旅館再生」とは、必ず金融機関が陰の主人公として存在するのです。そして、その背景には、日本だけの事情ではなく、国際的な経済環境の変化を伴っている点が、旅館再生において知っておくべき重要なポイント。つまり、ある意味、日本の金融機関も旅館も、「黒船の襲来」を受けたといえなくもないのかもしれません。
そのほか、金融機関から債権(借金の権利)を安く買うサービサー(債権回収会社)や、旅館に投資をする(借金を肩代わりして返済してしまう)スポンサー、スポンサーと組んで旅館の運営を担うオペレーターというプレーヤーたちが活躍(暗躍?)しているのが、現代の旅館再生の現場。
多くのプレーヤーが関わっているという例を挙げれば、例えば、本でも紹介されている山代温泉の白銀屋は、「石川銀行」が破綻したことにより債権を買った「整理回収機構」が民事再生を申し立て、前経営者を更迭したうえで、旅館を「ゴールドマンサックス証券」に売却して再投資し、オペレーターとして「星野リゾート」が運営を担っているという経緯があります。これは少々豪腕的な再生に当たりますが、金融再生は、その旅館ごとに手法が違い、その旅館ごとに誌面では紹介されることのないドラマがあるのです。
それでは、どんなドラマがあるのか。そのごく一部を次の記事でご紹介しましょう。
次の記事「旅館再生の現場から」へ。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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