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旅館料金はなぜ高い?「泊食分離」の必要性(2ページ目)

知られていない一泊二食料金の勝手な都合。消費者は部屋と食事を別々に選びたい!

井門 隆夫

執筆者:井門 隆夫

旅館ガイド


旅館・旅行業界で、ここ10年以上問題にされることの多い「泊食分離」という言葉。実は解釈はいろいろで、基本的に旅館業界では余り好かれていない言葉です。
簡単にいうと、旅館の伝統的な宿泊形態である「一泊二食」を、ホテルのように「泊」と「食」を分けようという取組みです。
近年では、バブルが弾けた直後の平成7(1994)年、国の観光政策審議会の答申で、「国内旅行は大規模なシステム変更が必要」で、具体的には「低価格化と価格・サービス体系の多様化による国内旅行システムの変革」を行うことが必要であり、そのなかに「泊食分離や料理の選択制の導入、宿泊施設の料金サービスの多様化、明瞭化等を図る」べきである、と報告されているように、以前から問題視されています。
ちなみに、私が旅行業にいたとき、約二千軒の旅館に関して、室料+施設使用料+食事(夕食+朝食)料を分けて提出してもらったこともあるのですが、私の知らないうちのあっという間に元の木阿弥の一泊二食に戻っていました。その名残は、この料金表示が合理的だと判断してくれた、岩室温泉「ゆめや」さんの料金表に残っています。
では、なぜ泊食分離が進まないかというと、必ず出てくるのが「利用者が望んでいない」という理由。「一泊二食の簡単な料金と、いろいろごちゃごちゃ足して料金を作るのとどっちがいいですか」と聞けば、多くの方が「簡単なほうがええわ」と答えるという理由です。それに「日本旅館の文化、伝統である」という理由もよく聞きますし、それも一理あります。さらには「食事を別にすると、旅館外で食べる人はまだしも、衛生上禁止されている持ち込みが増えるおそれがある」という事情もあり、実際、06年に旅行会社が泊食分離商品を実験した際には、コンビニ弁当持ち込み客も出て、保健所や旅館からひんしゅくを買ったのも事実です。ただし、本音では「旅館外で食べるお客さんが増えれば売上が落ちる」というのが最大の理由に他なりません。
それでは、なぜ「泊食分離」を進めなくてはならないのでしょう。
それは、第一に「旅館料金自体が不明瞭だから(なぜそんなに高いのか?)」に他なりません。
土曜日や休み中にはなぜあんなにも高くなるのでしょう?
2名一室だとなぜ高くなるのでしょう?
一人旅料金はなぜないのでしょう?
お子様ランチの子供料金(大人の50%)は高すぎないでしょうか?
そうした疑問に答える義務は旅館業界にはないのでしょうか。
まさしく、その答えが「利用者はそんなことは望んでいない」なのでしょうけれど、本当でしょうか?
第二には、温泉でのんびり「連泊・滞在」したいけど食事の量が多すぎるというお客様、郷土料理も食べてみたいというお客様、和食に慣れていない外国人の方々、遅い時間に到着したいお客様、別の宴席があるけど旅館に泊まりたいお客様、そうした「夕食不要」のお客様が泊まりにくいという理由。
現在、多くの旅館でそうしたお客様は事実上拒否する結果になっています。少ない人手で経営するので、例外的なお客様には対応できないという事情もあるでしょうけれど、もし、そうなら「お客さんが減って経営が苦しい」とはおっしゃらないで頑張るしかありません。
その結果、「旅館がなぜあんなに高いのかを追求すると、夕食がべらぼうに高いことがわかった」という四季リゾーツ社長の山中直樹さんは、「四季倶楽部」を立ち上げ、一泊朝食5,250円で、夕食は選択制(3,150円)という形態を採り、平日を含め客室稼働率80%を超える人気施設を全国展開しています。旅館業界から見ると、とても皮肉な結果ではないでしょうか。お金のない方が来ているかといえば全くそうではありません。むしろ、「ベンツのような高級車で来られるお客様も多い」そうで、合理的料金を好む都市生活者に支持されているのだと思います。
しかし、泊食分離を論ずるとき、必ずや悪者になる「旅館の夕食」ですが、本当に高いのでしょうか。おそらく、どの旅館の調理場でも「食事の売値」を決めて作っていますが(だから表示しようと思えばすぐできるはず)、それは3,000円~15,000円程度の会席料理が多いように思えます。ただ、その内容は、町なかの日本料理店で食べても同じくらいするものと思いますし、決して高すぎるものでもないように思えます。あえて言えば、そうした会席料理は、ハレの席で供されることが多く、カニ、エビ、あわび、牛肉といった高級食材を使いがちなので、値段が高くなるのです(ただし安くしても、ニセエビ、クリガニ、トコブシなどを使い高級食材のように見せようとする気持ちは理解しがたい)。そう考えると、旅館の夕食ばかりを悪者にするわけにはいかないように思えるのです。問題は、そうした会席料理をすべからくお客様が望んでいるかということです。少なくとも四季倶楽部に泊まるお客様は望んでいないでしょうし、もっと原価の低い野菜主体の料理だって、現代の飽食の時代には希望が増えていると思います。とはいえ、ハレ料理を望む方も多くいるので、もっと多様化すればよいと思うのです(旅館の方は一軒でやろうと考えてしまうのですが、そうではなく、一軒ごとが個性化すればよいと思うのです)。それができないというのであれば、経営者の料理センスや調理技術の問題に帰結します。
でも、そうそう、実は、旅館とは、本当は「多様な業態の集合体」なのです(それがみんな同じような見栄を張った料理を出すからわからなくなってしまっているだけ)。
宿泊売上は、「宿泊単価×客室稼働率×一室当り宿泊人数」、それに総室数と営業日数の掛け算で決まります。特に問題は、「客室稼働率」。これが上がらないので「宿泊単価」と「一室当り宿泊人数」を下げるわけにはいかない、というのが論点の本質なのですね。四季倶楽部は、「客室稼働率」が高いので、あのスタイルができますし、シティホテルも稼働率の最低ラインは70%程度。一方の、日本旅館といえば、50~60%が平均的で、低い宿では10%未満というところも知っています。
そこで(ここからが重要)、一泊二食制でも客室稼働率が70%超と高止まりしている宿ならば、泊食分離という制度変更をしてまで「客を外に逃がす必要もないし、伝統を変える必要もない」と思われて当然かもしれません。一方、客室稼働率が低い宿はといえば、もっと多様な消費スタイルを取り込んでいったり、新たな料理スタイルを開発したりする必要があります。そうした業態を一緒くたにして論じているから、先に進まないのです。すなわち、業界の問題ではなく、地域性や一軒ごとの問題です。しかし、国や旅行会社は、それに網をかけて全部やろうとするから、反発を食ったように思えます。(ただし、率先して地域の泊食分離をまとめているのは稼働率の高い健全経営旅館で、意地で反発しているのが稼働率の低い旅館だったりするから始末が悪い)
話はもとに戻りますが、「泊食分離」を進めるべき理由の第一の「旅館料金の不明瞭さ」。
それは(ここから要注意)、「部屋の種類と季節や曜日の需給バランスに応じて変化する」お部屋料金と、「食材の原価・内容によって価格が決まる」食事料金、つまり、価格算定根拠の違う二つの料金が合算されて一泊二食料金になっているからややこしいのです。その際、利用者も知らない、最大のネックは!
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