ミステリーの女王といえば、イギリスを代表する推理作家、アガサ・クリスティ。日本でも80冊以上が翻訳されており、世界中のミステリーファンに今なお愛読されています。
美食の名探偵【エルキュール・ポアロ】 |
彼女が世に生み出した登場人物の中に、名探偵エルキュール・ポアロがいます。卵型の頭にとても大きな口髭の小男、とってもおしゃれで、フェミニスト。元々はベルギー警察にいたのですが、第一次大戦に避難民としてイギリスにやってきました。非常にユニークで、うぬぼれやで、かつ憎めない。そして何より人並み外れた「小さな灰色の脳細胞」を持つ、魅力あふれる人物です。(『名探偵ポアロ』DVD BOXより発売元:ビームエンターテイメント)
このポアロ氏、実は大変な美食家です。たとえば、『マギンティ夫人は死んだ』(1982年、ハヤカワ・ミステリ文庫)の1シーン。
『食べることは、もはや単なる肉体的な歓びばかりではなく、知的探究の域にまで達するのだ。つぎの食事までのあいだに、はじめてお目にかかるようなすばらしい料理を出してくれそうな店を検討したり、探究したりすることに、彼はたくさんの時間を費やすのだ。』
といった美食に関する持論が展開されています。ちなみにこの日の晩餐は、ポアロ氏お気に入りのフランス料理店で、エスカルゴ料理を堪能したのでした。
クリスティが描く1900年代の英国の食卓 |
小説の中のシーンは、描かれた当時の人々の食生活を私たちに教えてくれます。1900年代初頭から中期のイギリスの食卓(といっても主に上流階級ですが)をのぞいてみましょう。短編集『クリスマスプディングの冒険』(1985、ハヤカワ・ミステリ文庫)での、午後のお茶の時間の1シーンから。
『おやつがはこびこまれてきた。ホットケーキに、クランペットに、サンドイッチに、なお三種類という、豊富なおやつだった。』
この短編集の中には、他にもクリスマスの晩餐の場面ではカキのスープや、七面鳥のグリル、七面鳥の栗詰め、プラム・プディング、料理店での食事の場面では、ひらめの切り身、ビーフステーキetc…。おいしそうなお料理が並んでいます。
ちなみにクランペット(Crumpets)とは、イギリスの代表的なおやつで、小さめのホットケーキのようなイギリスの伝統的なお菓子です。
トリックやストーリーはもちろんですが、こんなふうに別の側面からミステリーを読んでみるというのも、1つの楽しみ方かもしれません。
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