前ページでは触れませんでしたが、韓国の地下鉄火災では消火器も消火栓も使用されていません。しかも、消防隊が進入した時、10cm前も見えないほどの濃煙の中からは助けを求める人々の悲鳴が聞こえてきた為、救急・救助活動が優先され、消火活動がはじまったのはかなり後になってからです。
消防車による送水 (この画像は、私がビルの点検を行った際のモノで、連結送水管設備に送水している模様ですす。) |
また、消防隊が消火活動に使用する為にバルブを開いても、すでにスプリンクラーの放水で使い切ってしまっていた為に水は出なかったようです。しかし、駅員や乗客による使用の痕跡はなかったようです。
日本にも同じようにスプリンクラーと消火栓が一つのポンプと水源を共用しているビルもありますが、地下駅でもそういう方式の駅があるのかは定かではありません。
このような状況になる可能性が最も高いのはスプリンクラーと同じ水源を使用するのは補助散水栓です。見た目は、2号消火栓という、一人でも操作可能な消火栓設備とほとんど変わりませんが、スプリンクラーの水がかからない部分をカバーするための設備です。
スプリンクラー設備の作動状況
まず、韓国地下鉄火災が発生した大邱市地下鉄1号線 中央路(チュンアンノ)駅構内におけるスプリンクラー設備の設置状況を調べてみました。
設置状況は以下の通り。
地下一階 382個
地下二階 536個
地下三階 0個
スプリンクラーヘッドの仕組み |
死者192名、負傷者146という大惨事が発生した出火階は、地下三階のホーム(深さ18M)。しかし、この階にスプリンクラーは設置されていませんでしたので、初期消火に関しての検証が出来ませんでした。そこで、延焼防止に役立っているのかを見ることにします。
地下一階では103個、地下二階では64個のスプリンクラーが作動しています(確認出来たモノのみ)。気になるのは、多数のスプリンクラーヘッドが破損して作動しなかった事です。ヘッドの仕組みからも、そのような事態は想像出来ませんので、早急に原因の追及をし、情報の公開をして頂きたいと思います。
スプリンクラー消火設備は、ヘッド部分が熱を感知すると自動で水を散水する仕組みになっていますが、出火階に近い地下二階で作動したスプリンクラーが少ないのは何故でしょう?これも、事故後の検証ができていました。
スプリンクラーはどのように作動するのか?
地下二階で散水したスプリンクラーが少ないのは、火炎が煙と共に階段を上がったのだと考えられます。これは、中央階段付近と北階段付近のヘッドが作動していたことから分かったことです。
中央路(チュンアンノ)駅構内では、およそ2.7~2.8mごとにスプリンクラーヘッドが取り付けられていました。どのようなタイプのヘッドだったのか?水が出た量はどの位だったのか?なども定かではありませんが、日本では通常のスプリンクラーヘッドを取り付ける場合だと、半径2.3m以内で取り付けるよう、消防法で定められています。
「毎分80リットル以上」の水を放水しているスプリンクラーヘッド |
水が出る量も、一個のヘッドで毎分80リットル以上と決められています。例えば、床面積が20m×20mの事務所なら25個のヘッドを設置します。地下部分になると、ヘッドの間隔はもっと狭くするように定められていますので、スプリンクラーヘッドの数はもっと増えます。
ここで問題となるのが、同時に多数のスプリンクラーヘッドから水が出てしまった場合、水の放水量が規定量を下回ってしまうということです。
右の写真は、法令で定められた「毎分80リットル以上」の水を放水している様子です。
水源の水を使いきってしまうと、このような散水状況となります。 |
次に、今度の写真は(右)は消火水槽、防火水槽などから水を使い切ってしまい、ほとんど水が出なくなったときとほぼ同様の状況での、スプリンクラーの散水状況です。
多くのスプリンクラーが作動してしまった中央路(チュンアンノ)駅構内での散水状況は、ほぼこの(右の写真→)状況です。
中央路(チュンアンノ)駅の地下一階北側部分は、スプリンクラーがきちんと作動した為に、それほど煙も出ていなかったことから、十分な水源の確保と、破損して作動しなかったスプリンクラーヘッドの破損原因を追求し、改善することで、私達はより安全な都市生活を送ることが出来るようになるでしょう。
新たな消防設備への期待
レーザーによる粒子の測定 |
今回の法令が承認されると、東京都の地下駅には全てスプリンクラーが設置されます。このような設備を後から設置するというのは、費用面でも場所の確保などの面からも、鉄道会社にとってはもの凄い負担となるのは容易に想像がつきます。
しかし、利用者の立場からしてみれば「本当に付いていなかったの?」というくらい設置されていて当たり前で、これ以上の安全対策が出来ているものだと思って利用していた人々も多いと思います。
私にも、期待している設備があります。それは、ウォーターミストという消火方法です。
ウォーターミストの放水実験 |
特殊なヘッドを使用して、水を高圧で放射して霧状にして散水する設備なのですが、ガス系の消火設備に匹敵する消火能力を持っています。スプリンクラーを設置することになったとしても、駅舎のホーム部分などでは列車の屋根の上にスプリンクラーを設置するのは不可能だと思います。
しかし、霧状にして散水するこの設備であれば冷却効果と共に、より高度な消火活動が期待出来ます。2004年東京消防防災展では、民間企業による出展もあり、バイクに設置出来るほど省スペース化ができていました。列車の不燃化向上と同時に、このような設備の実用化が早まることを期待します。
もう一つ。
海底トンネル等の避難経路 |
今ある地下鉄駅には無理でも、今後は階段やトンネル以外の避難経路も用意した地下鉄駅を作って欲しいと思います。海底トンネルなどにあるような避難経路で、耐火性もきちんとしていてまったく別の空間のような待避所は、絶対に必要だと思います。
小さな子供や老人にとっては、パニックの中で階段を上るのは絶対に不可能です。テロや放火事件の多発を考えれば、私の言っていることは決して大げさなことではないと思います。
国や自治体、消防への期待!
会社や学校に行く為に、地下鉄を利用する人々の為にも、その家族を持つ人々の為にも、「イイ!」と、思ったことはどんどん導入して頂きたいと思います。
そして、間違っていることや疑問が残る事に対しては、徹底的に調べ直し、我々の都市生活をより安全なモノにして下さい。期待しています!
<関連サイト>
いざというときの消防設備:排煙口
『有毒な煙を吹き飛ばせ!』
参考サイト
「地下鉄道の火災対策の基準について(昭和50年1月30日 鉄総第49号の2)」PDF形式
「地下鉄道の火災対策基準の取扱いについて(昭和50年2月14日鉄土第9号)」PDF形式